今週、編集部が最も注目したのはIonQ、SkyWater Technologyの買収を完了し、垂直統合型量子プラットフォームを確立です。量子コンピュータ企業が、自社で使う半導体そのものを自社工場で作る体制を整えた例だからです。量子業界の事業構造そのものに影響しうる出来事として、今週の1本に選びました。
発表内容を整理します。IonQは、イオントラップ方式と呼ばれる量子コンピュータを開発している企業です。イオントラップ方式とは、電気を帯びたイオンを空中に閉じ込めて量子ビットとして使う方式のことです。今回IonQは、米国最大級の国内半導体製造企業であるSkyWater Technologyの買収を完了しました。これにより、IonQは量子プロセッサの設計だけでなく、製造や実装までを自社グループ内で一貫して行える体制になりました。あわせて、次世代の量子プロセッサを国内の工場で作れる供給網も確保したことになります。
これが業界にとって何を意味するのか。これまで多くの量子コンピュータ企業は、チップの設計は自社で行い、実際の製造は外部の半導体工場に委託するのが一般的でした。この方式は初期投資を抑えられる一方、製造工程の細かい調整や、供給の遅れといったリスクを外部に依存することになります。IonQが選んだのは、その逆の道です。製造まで自社で抱えることで、設計変更への対応や品質管理を自社の裁量で進められるようになります。半導体の国内供給網を重視する近年の動きとも重なる判断だと言えます。
同じ週には、量子コンピュータの実用化を支えるための研究や教育、産業連携に関する発表も相次ぎました。例えばRigetti、HPE、Pittsburgh Supercomputing Centerが提携しハイブリッド実験施設「TangleLab」を構築や、UC BerkeleyとQuantrolOxが量子処理の産業化に向けた5年間のパートナーシップを締結は、大学や研究機関と企業が組んで、量子コンピュータを実験室の段階から実用段階へ引き上げようとする取り組みです。IonQの垂直統合は、こうした「実用化への準備」を、外部連携ではなく自社内に取り込む形で進めるものだと位置づけられます。どちらのアプローチも、量子コンピュータを実際に動かし続けられる体制づくりという同じ課題に向き合っていると言えます。
今回の発表では、買収が完了したことと、体制が一本化されたことが示されました。まだ示されていないのは、この垂直統合によって実際に量子プロセッサの性能や供給の安定性がどれだけ向上するかという具体的な成果です。自社工場を持つことと、そこから優れた量子ビットを安定して作り出せることは、別の課題だからです。次に、SkyWaterの工場で実際に製造された次世代量子プロセッサが動作し、その性能データが公開されれば、この垂直統合の狙いが具体的な形で裏付けられることになります。
