ASP Isotopes Inc.(NASDAQ: ASPI)は、濃縮同位体を製造する米国の企業です。同社は南アフリカ・プレトリアにシリコン28の濃縮施設を持っています。量子コンピュータそのものを作る会社ではありません。それでも量子コンピュータの話題に名前が出てくるのは、材料の側から量子ビットを支える立場にあるためです。
理由は原子核の性質にあります。シリコン28は、シリコンの同位体のうち原子核が磁気を持たないものです。一方、天然のシリコンには核スピン、つまり原子核が持つ小さな磁石のような性質を備えたシリコン29が約4.7%混ざっています。同社の説明によれば、このシリコン29が量子ビットの状態を乱します。シリコン28の純度を上げると、量子ビットがもつれた状態を保てる時間、いわゆるコヒーレンス時間が長くなるとされています。シリコンスピン方式の量子コンピュータにとっては、材料の側の課題にあたります。
直近の動きを時系列で見ます。同社は2026年5月26日に、プレトリアの濃縮施設の最初の18段を再稼働させたと発表しました。9か月の技術改修を経たものです。この18段は3週間以上にわたって目標の濃縮度で運転できたとしています。中核でない部品への改修プログラムは完了し、残りの段にも同じ改修を予定しているとのことです。同社によると、米国の顧客とは濃縮シリコン28の商用契約を3件結んでおり、用途は量子コンピュータと次世代半導体です。初回の商用出荷は2026年第3四半期の見込みとしています。また、2025年に米国の顧客へ送った試料は、独立した分析で理論どおりの濃縮度だったと確認されたとしています。
濃縮度には段階があります。2026年8月4日の株主宛の書簡で、同社は2026年後半に濃縮度99%の完成品の初回出荷を目指すとしています。一方、量子コンピュータ向けに必要とされる濃縮度は99.995%です。同社は、技術チームが残りのコンプレッサーの改修を進めており、完了すれば99.995%までの濃縮が可能になるとしています。同じ「濃縮シリコン28」でも、半導体向けと量子コンピュータ向けでは求められる水準が違うわけです。
市場の受け止めにも触れておきます。5月26日の発表を受けて、株価は翌セッションで24.9%動きました。取引時間中の最大は29.8%でした。同社はまた、南アフリカでの二次上場を準備しており、それに先立って南アフリカの投資家向けの説明を行っているとしています。
財務は2026年1〜3月期の数字です。売上高は420万ドルで、前年同期は110万ドルでした。継続事業の純損失は2670万ドル、非継続事業を含めた純損失は710万ドルです。2026年3月31日時点で、現金は2億730万ドル、短期投資は8320万ドルです。詳細は同社の投資家向けページで確認できます。
最後に、まだ示されていないことを整理します。99.995%での量産が実機で確かめられたという発表は出ていません。商用契約3件については、契約先の企業名も金額も公表されていません。初回の商用出荷の時期は見込みであり、確定した日程ではありません。本記事は2026年8月17日時点で公開されている情報にもとづくものです。数値や日程はその後変わる可能性があります。


