物流の巡回・配送の最適化は、量子コンピュータの応用先として繰り返し挙がるテーマです。よく登場するのが巡回セールスマン問題(TSP)と車両経路問題(VRP)です。TSPは、N か所を1回ずつ回って出発点に戻る最短の順番を求める問題です。VRPは複数の車で配る問題で、積める量や配達時間といった制約が加わります。どちらも組合せ最適化と呼ばれる種類の問題です。難しさの正体は候補の数です。地点の数が増えると、回り方の候補は爆発的に増えていきます。
量子で解こうとするとき、下ごしらえは共通です。まずQUBO(Quadratic Unconstrained Binary Optimization、制約なし二次二値最適化)の形に直します。0か1を取る変数の二次式として、最小にしたい量を書く形式です。「1回ずつ訪れる」といった制約は、破ったときに値が大きくなる罰則の項として同じ式に混ぜます。QAOAでも量子アニーリングでも、この同じQUBOを入口にできます。方式が違っても、問題の書き方は共通だという点が理解の助けになります。
量子アニーリングは、解きたい式をハードウェアのエネルギーに写し、ゆっくり変化させて低いところへ落とす方式です。D-Waveの装置がこの方式にあたります。仕組みの解説は用語解説「量子アニーリングとは?」や教えて先生の回で扱っています。
もう一方のQAOA(量子近似最適化アルゴリズム)は、ゲート式の量子コンピュータを使うやり方です。回路のパラメータを古典計算機で調整しながら答えを探す、ハイブリッドの手法です。こちらは用語解説「QAOAとは?」で紹介しています。
では、どこまで示されているのでしょうか。既報では、OracleとClassiqが12資産のポートフォリオ最適化を36量子ビットの回路で解いた事例があります。Classiqの合成エンジンは3層のQAOAを使い、ゲートレベルの深度730を生成したとされています。実行環境はOCI上のNVIDIA DGX A100ノード(8基のA100 GPU)で、約5時間、COBYLAオプティマイザで15回の外部反復、1回あたり16,384ショットでした。20万のランダムな実行可能状態からの古典ベンチマークと比べ、目的値ギャップは4.63%と報告されています。ただしこれは無ノイズのシミュレーションであり、比較の相手も古典ベンチマークです。配送そのものでは、Quapp Developerが応用例としてQ-FLEET(配送時間や車両の収容能力を考慮する車両経路問題)とQ-PORTFOLIOを公開しています。
規模の話も数字で出ています。36量子ビットの状態ベクトルは約687億の複素振幅で、保持に約512GiBのGPUメモリが要るとされています。古典側でシミュレートするだけで、この規模になるということです。
周辺では複数の取り組みが進んでいます。低深度QAOAのウォームスタートは、古典ヒューリスティクスの解を初期値に使って浅い回路を強化する研究です。JIJとORCA Computingはハイブリッド量子古典のエネルギー最適化を実証したとしています。AT&TはD-Waveとの提携を拡大し、通信ネットワーク運用の最適化に取り組むとしています。D-WaveはNRCからの資金提供も受けています。比較の物差しをそろえる動きとしては、QOBLIB(Quantum Optimization Benchmarking Library)が公開されています。
一方で、示されていないこともあります。実際の配送規模、つまり数十から数百の地点で、古典の解法を上回ったという結果は、ここで挙げた資料には含まれていません。目的値ギャップ4.63%は「古典より良い」ではなく「古典に近い」という意味の数字です。本記事は2026年8月17日時点で確認した内容に基づきます。最新の状況はblueqat newsの各記事でご確認ください。




