分子科学研究所(IMS)は、大学共同利用機関法人自然科学研究機構(NINS)の一員として、日本初のフルスタック中性原子量子コンピュータ「春海(Shunkai)」が稼働を開始したことを発表した。内閣府ムーンショット目標6 / JSTムーンショット型研究開発事業のもとでプロジェクトマネージャーを務める大森賢治教授が主導し、このプラットフォームは、ソフトウェアスタックを担当する株式会社日立製作所(Hitachi, Ltd.)と、量子処理ユニット(QPU)のハードウェアスタックを担当するInfleqtion, Inc.とのパートナーシップによる産学コンソーシアムを通じて構築された。
| [ IMS中性原子システムアーキテクチャ:「春海(Shunkai)」] | ||
|---|---|---|
| ハードウェアスタック(QPU) | ソフトウェア・制御スタック | 規模とロードマップ目標 |
| ・中性ルビジウム原子 | ・Hitachiソフトウェアスタック | ・フェーズ1:物理量子ビット50個 |
| ・光ピンセットアレイ | ・Infleqtion QPUエレクトロニクス | ・フェーズ2:物理量子ビット500個 |
| ・室温での量子ビット制御 | ・動的に移動する原子 | ・2031年目標:FTQC量子ビット1万個 |
「春海(Shunkai)」システムは、天体観測に基づいて日本初の独自暦を設計した江戸時代の天文学者、渋川春海にちなんで名付けられている。このフルスタックプラットフォームは、ユーザーレベルのソフトウェアから物理的なレーザー制御・読み出しシステムまでを直接統合している。
- 光ピンセットによる量子ビットのトラッピング:単一の中性原子は、高NA対物レンズを通して緻密に集束されたレーザービームによって生成される光ピンセットを用いて、二次元格子に捕捉される。量子論理ゲートは、標的を絞ったマイクロ波・レーザーパルスによって駆動され、個別の読み出しは高解像度蛍光カメラを介して実行される。
- 室温での再構成:極低温希釈冷凍機を使用せずに動作し、このプラットフォームは動的な原子輸送を活用して実行時に量子ビットを物理的に移動させることで、全対全接続性と再構成可能な回路トポロジーを実現している。
- コンソーシアム・エコシステム:ハードウェアコンポーネントの統合とQPUパッケージングはInfleqtionとの提携によって開発され、一方でHitachiは基盤となるシステムオーケストレーションとコンパイラのソフトウェアスタックを設計した。
今回の稼働開始は、2031年3月まで続く大森ムーンショットプロジェクト(中性原子ベースの誤り耐性量子コンピュータ)のステージ2への移行を示すものである。
- 近未来の外部アクセス:約50個の物理量子ビットから開始し、システムは500量子ビットまで拡張されるとともに、アルゴリズム最適化および量子誤り訂正(QEC)実験のために、学術界および企業の研究者に部分的なクラウドアクセスを開放する予定である。
- 商業化の導管:アカデミック・スピンアウト企業であるYaqumo Inc.(大森教授が共同設立)が、日本の企業セクター全体における商用アプリケーション開発とシステム展開を推進する。
- HPC・量子ハイブリッドセンター:IMSは、春海を既存の共同利用スーパーコンピュータ施設と統合し、地域の量子・GPUハイブリッドコンピューティング拠点を構築する計画である。
- 長期的なFTQC目標:2031年3月までに、ムーンショットチームは、能動的な量子誤り検出・訂正機能を備えた1万個の物理量子ビットを有する誤り耐性量子コンピュータの実現を目指している。
内閣府/JSTムーンショット型研究開発事業および文部科学省 量子技術フラッグシッププログラム(Q-LEAP)からの資金支援を受け、春海は中性原子量子処理における日本の自立的な国内基盤を確立するものである。
分子科学研究所の公式発表の詳細はこちらでご確認いただき、JSTムーンショット型研究開発事業 目標6でプログラムの目標をご覧いただき、大森グループ(Ohmori Group)で研究手法をご確認いただきたい。また、インド日本間の中性原子量子ハードウェア研究開発に関するIISc・Yaqumo戦略連携についての以前の記事はこちらでご覧いただける。
2026年8月24日




