9月3日のクオンタムビュー、始まります。本日入ってきたニュースは全部で10本です。まずは10本すべてをざっと紹介し、そのあと気になったものを久保田さんと詳しく見ていきます。
ではまいります。今日入ってきた10本です。
まず量子コンピュータの基礎技術に関する動きから3本です。窒素空孔中心とは?ダイヤモンド結晶中の欠陥を使ったセンサー技術について解説する記事が出ました。しきい値以下の誤り訂正を手元で検証——Googleの主張のうち、装置に依らない部分は成り立ったGoogleが2024年に発表した誤り訂正の主張を検証した結果、装置に依らない部分は成り立つことが確認されました。マイクロ波不要で10 ns・99%超──超伝導量子ビットの高速な状態準備と読み出しを実証超伝導量子ビットの準備と測定を、10ナノ秒かつ99%超の精度で実現したという報告です。
続いて量子コンピュータを実際の問題に使う動きを3本です。Rigetti、Purdue Universityと共同で制約付き最適化のための量子プリコンディショニング・フレームワークを実証Rigetti ComputingとPurdue Universityが、組合せ最適化を最大100倍高速化する手法を実証しました。PasqalとTrue Nexus、中性原子QPU上でタンパク質ゲル化構造を符号化Pasqalとサウジアラビアの企業が、タンパク質がゲル化する仕組みを量子プロセッサ上で再現しました。確率的ユニットコミットメントをMWISに変換、QuEra Aquila実機で産業スケジューリングをエンドツーエンド実証発電機の起動停止計画をQuEraの実機で解く実証が、50ノード規模・15日間分のスケジューリングで行われました。
次にハードウェアの新製品と提携を4本です。IBM、能動的散逸型量子ビットリセットと25倍の回路スループットを特徴とするNighthawk r2 QPUをリリースIBMが120量子ビットの新型プロセッサを発表し、従来比25倍の処理速度を実現しました。Quoblyが、シリコンスピン量子ビット製造の産業化に向けてTNOおよびOrangeQSと2件の協定を締結フランスのQuoblyが、オランダの2社と量子ビット製造の産業化に向けた協定を結びました。PsiQuantumとBrookhaven National Lab、Constructプラットフォームでフォールトトレラントアルゴリズムを開発するため提携PsiQuantumと米国立研究所が、量子アルゴリズム開発ソフトウェアを使った共同研究を始めます。QuSecure、米陸軍Project Convergence Capstone 6においてQuProtect R3でTRL-7を達成QuSecureの耐量子暗号製品が、米陸軍の実証イベントで運用準備完了の段階に到達しました。
以上10本です。この中から、IBMのNighthawk r2、PsiQuantumとBrookhaven National Labの提携、QuSecureのTRL-7達成の3本を詳しく見ていきます。まずはIBMのニュースからまいりましょう。
IBM、Nighthawk r2 QPUをリリースIBMは120量子ビットの新型QPU「Nighthawk r2」を発表しました。従来のHeron QPUが毎秒約4000回路だったのに対し、毎秒10万回路超と25倍の速さを実現しています。さらに中性子散乱シミュレーションでは12倍の高速化を達成したとのことです。
久保田さん、この高速化の鍵になっている「散逸型量子ビットリセット」というのは、具体的にどういう技術なのでしょうか。
一言でいうと、量子ビットを使い終わった後の「片付け時間」を大幅に短くした、という話です。従来は量子ビットを初期状態に戻すのに、パルスを当てて測定して確認する手順を踏み、その分だけ次の計算まで数百マイクロ秒待つ必要がありました。Nighthawk r2は各量子ビットに専用の冷却の仕組みを持たせ、低温の環境に直接つないで強制的に落ち着かせる方式に変えています。これで待ち時間が1マイクロ秒程度まで縮み、回路を回す速さが25倍になったわけです。ただしこの数字はIBM自身のHeron世代との比較です。他社のハードウェアと並べた速度の位置づけはまだ分かりません。実際のアプリケーションでどこまで効くかは、今後の第三者による検証を待ちたいところです。
つまり、量子ビットを次の計算に使えるようにする「片付け」を速くしたことで、1秒間に処理できる回路の数が従来の25倍に増えた、ということですね。ただし比較対象は同じIBM製のHeron世代である点は押さえておきたいです。
PsiQuantumとBrookhaven National Lab、Constructプラットフォームでフォールトトレラントアルゴリズムを開発するため提携PsiQuantumと米Brookhaven National Labが提携を発表しました。Brookhavenの研究者は、PsiQuantumが2026年5月に無償公開したソフトウェアConstructを使い、量子回路の設計とリソース最適化を行います。2028年までのフォールトトレラント量子コンピュータ実現を目指す米エネルギー省のQuantum Genesis Initiativeとも連携する取り組みです。
久保田さん、この「Construct」というソフトウェアは、実機がまだ無い段階で何を計算できるものなのでしょうか。
Constructは、実機を動かす前に「もし誤り訂正が効く量子コンピュータができたら、この問題を解くのにどれだけの部品が要るか」を見積もる設計図作成ツールです。回路を論理量子ビット向けに組み替え、必要なTゲート数や誤り訂正の予算を計算します。今回変わったのは、Brookhavenの研究者がこのツールを実際の科学的な問題に適用し始めた、という点です。まだ具体的な見積もり結果や、それが従来の見積もりよりどれだけ改善したかは示されていません。次に出れば、化学や高エネルギー物理での具体的な数字が判断材料になります。
Tゲート数というのは、誤り訂正が必要な量子コンピュータで一番手間のかかる計算操作の回数のことですね。つまり、Constructは実機ができる前に必要な部品の見積もりを行うツールで、Brookhavenはそれを科学の問題に使い始めた段階、ということですね。
QuSecure、米陸軍Project Convergence Capstone 6においてQuProtect R3でTRL-7を達成QuSecureの耐量子暗号製品「QuProtect R3」が、カリフォルニア州フォート・アーウィンで行われた米陸軍の実証イベントで運用され、技術成熟度を示す9段階評価のうち7番目にあたる「TRL-7」に到達したと発表されました。
久保田さん、このTRL-7というのは、実際の運用にどれだけ近い段階を指すのでしょうか。
TRL-7は「試作システムが実際の運用環境で動いた」という段階を指します。研究室の実験ではなく、フォート・アーウィンでの実動演習という本物に近い条件で、暗号方式をアプリごと書き換えずに切り替えられる仕組みが機能したことが確認された、という点が今回の前進です。ただし示されたのは動いたという事実までです。どれだけの通信量や期間に耐えられるかという具体的な数字はまだ出ていません。国防総省全体への展開判断には、そうした耐久性データが次に必要になります。
耐久性データというのは、長期間・大量の通信でも切り替えの仕組みが壊れずに動き続けるかを示す記録のことですね。つまり、今回は実戦に近い環境で動くことは確認できたけれど、どれだけ長く・多く使えるかはまだこれからの確認事項、ということですね。
今日見た3本は、それぞれ別の進み方をしています。IBMは自社のHeron世代との比較で25倍という数字を出し、PsiQuantumは見積もりツールを科学の問題に使い始めた段階、QuSecureは実戦に近い環境で動いた事実を確認した段階です。無理に一つの流れにはまとめません。共通しているのは、どれも次は具体的な数字が問われる番だという点です。次に見ておきたいのは、QuSecureの耐久性データがどこまで出てくるかだと思います。
最後に今日の米国市場です。9月2日の終値は、量子関連10銘柄のうち上昇5・下落5、平均は+3.13%でした。上げ幅が最も大きかったのはHorizon Quantumで+19.95%、最も小さかったのはRigettiで-0.80%でした。
久保田さんのお話のとおり、今日の3本はいずれも次の具体的な数字が問われる段階です。明日の夜もこの時間に、クオンタムビューでお会いしましょう。




