量子コンピュータは、私たちが普段使っているコンピュータ(古典コンピュータ)とは全く異なる原理で動く、新しいタイプの計算機です。古典コンピュータは「0」か「1」のビットで情報を処理しますが、量子コンピュータは「量子ビット(キュービット)」という単位を使います。量子ビットは、0と1が重なり合った「重ね合わせ」という状態をとれます。ただし、たくさんの答えを同時に計算して全部取り出せるわけではありません。重ね合わせと「干渉」をうまく使って、正しい答えが出やすくなるよう計算を組み立てることで、特定の問題を古典コンピュータより速く解けると期待されています。実現方式には超伝導方式、イオントラップ方式、シリコンスピン方式などがあり、欧州初の50量子ビット超伝導量子コンピュータ(VTTとIQM)や、数千量子ビットを目指すイオントラップ方式のZuriQ、既存の半導体の製造技術でシリコンスピン方式の量子コンピュータを量産できるようにする、日立・Intel・産総研(AIST)のNEDOプロジェクトなど、様々なアプローチで開発が進んでいます。
ただし、量子ビットはとても壊れやすく、周りの環境からのわずかなノイズで状態が崩れてしまいます。これを防ぐために「量子誤り訂正」という技術が必要で、現在はこの誤り訂正をいかに効率的に行うかが研究の中心となっています。ドイツ政府が選んだQUDORA主導のコンソーシアムは、少なくとも1,000の物理量子ビットと50の論理量子ビットを持つ、誤り耐性型のイオントラップ量子コンピュータの開発を目指しています。一方で、NECのように商用化までの期間の長さを理由に超伝導量子コンピュータの社内開発を中止し、アニーリングや古典エミュレーションに注力する企業も出てきています。
量子コンピュータは、まだ実用化の初期段階にありますが、将来は暗号解読や新薬開発、物流の最適化など、従来のコンピュータでは解くのが難しい問題を高速に解けると期待されています。実際に、米国テネシー州チャタヌーガでは電力会社EPBがIonQのイオントラップ型量子コンピュータを稼働させ、まずスマートグリッドの最適化に使う商用サービスを2026年10月に始める予定で、産業利用への道が開けつつあります。ニュースで「量子コンピュータ」という言葉を聞いたら、それはこのような革新的な計算技術のことを指していると覚えておくとよいでしょう。



