DARPA(ダーパ)は、米国国防総省の研究開発機関である「国防高等研究計画局」の略称です。ひとことで言うと、将来の軍事技術を生み出すために、まだ実用化されていない先端科学技術へ積極的に投資する、政府の中の「未来技術のベンチャーキャピタル」です。量子コンピュータも、DARPAが注目する重要なテーマの一つです。
DARPA自体は研究所を持たず、大学や企業に研究資金を提供し、プロジェクトの進捗を管理する仕組みです。量子コンピュータの分野では、ハードウェアの開発だけでなく、誤り訂正の技術や、どの方式が実用化に近いかを評価するためのプログラムも立ち上げています。たとえば、量子コンピュータの性能を公平に測るベンチマーク手法の開発や、従来とは異なる新しい量子コンピューティングのアーキテクチャを探索するプロジェクトなどが有名です。これにより、企業や大学はDARPAの資金を得て、長期的な研究に取り組むことができます。
DARPAが量子コンピュータに注目する理由は、国防上の課題と深く関わっているからです。量子コンピュータは、現在のスーパーコンピュータでは解けない複雑な計算を高速に行える可能性があり、暗号解読や材料開発、気象予測などに応用できます。特に、暗号解読は国家安全保障に直結します。また、量子センサーや量子ネットワークなどの周辺技術にも投資しており、量子技術全体の基盤を育てる役割を担っています。
最近の動きとしては、DARPAは2025年2月に、実用的な大規模量子コンピュータの開発を目指す「未踏システムのための量子コンピューティング(US2QC)プログラム」の最終検証段階に、マイクロソフトとPsiQuantumを選出しました。マイクロソフトはトポロジカル量子ビット方式、PsiQuantumは光を使う方式で開発を進めています。さらに、2024年7月に始めた「量子ベンチマークイニシアチブ(QBI)」では、実用規模の量子コンピュータが2033年までに実現できるかを検証しており、2025年4月に約20社を最初の段階(ステージA)に選びました。同月、DARPAはメリーランド州と連携し、メリーランド大学に量子ベンチマーキングの中心拠点を設立する合意書を締結しました。この拠点では、QBIに参加する企業の計画やシステムを評価します。また、QuEra ComputingもこのQBIのステージAに選ばれ、2025年11月にはステージBに進んでいます。その後も、DARPAは量子ネットワークの信号安定性を高めるための契約をQunnectに授与したり、IonQとは原子時計に関する契約を2800万ドル分延長するなど、関連技術への投資を続けています。さらに、ニューメキシコ州は、既存の助成金制度の対象にQBIのステージCを加えました。また、QBIのステージBに進んでいるDiraqは、州の支援を受けてニューメキシコ州に研究開発ラボを設立する予定です。
身近な例えで言うと、DARPAは「未来の技術を育てる苗床」のような存在です。インターネットの原型であるARPANETや、GPSの先駆けとなった衛星測位システムTransitも、DARPA(当時はARPA)の支援から生まれました。量子コンピュータも、この苗床から育つ可能性があります。よくある誤解として、DARPAが直接コンピュータを製造していると思われがちですが、実際は資金提供とプロジェクト管理が主な仕事です。また、関連する用語として「量子誤り訂正」や「NISQ」があります。DARPAの活動は、これらの基礎技術がいつ実用化されるかを左右するため、量子コンピュータの未来を語る上で欠かせない存在です。




