最近、若い人たちの起業がすごい勢いで進んでいます。話を聞いていて感じるのは、ひと昔前の起業とは、どうも雰囲気が違うということです。
私が知っている起業は、もっと泥臭いものでした。とにかくお金がかかる。借入をして、資金調達に走り回って、人を集めて、事務所を借りて、ようやくスタートラインに立つ。失敗すれば借金が残る。だからこそ、強い目的とガツガツした覚悟がないと始められない。それが「起業」の姿だったと思います。
いま起きているのは、その起業が「スマート」になる流れです。私はこれを、起業の「eスポーツ化」と呼んでみたいと思っています。
起業のハードルを下げたのはAIだ
いちばん大きいのは、AIが出てきたことです。
以前なら、プログラムを書く人、資料を作る人、問い合わせに答える人、調べものをする人と、何人も雇わなければ回らなかった仕事があります。いまはその多くを、AIを使いこなす少人数でこなせるようになりました。人を大勢雇わなくていい。大きな事務所もいらない。
人が少なくて済むということは、最初にかかるお金が小さいということです。大きな借入をしなくても始められる。うまくいかなければ、傷が浅いうちに引き返せる。起業の怖さの多くは「失ったときに取り返しがつかない」ことでしたが、その前提が変わりつつあります。
そして少人数で回るということは、利幅を厚くしやすいということでもあります。売上が大きくなくても、手元に残る割合が大きい。昔の起業が「まず大きく借りて、大きく売って、ようやく返す」形だったとすれば、いまは「小さく始めて、厚く残す」形が取れるようになっています。
強いのは「ドメイン知識×AI」
では、どんな起業がいいのか。私は、自分の持っている専門知識(ドメイン知識)をAIと組み合わせる起業が、かなりいいのではないかと思っています。
AIそのものは、誰でも使えるようになりました。だからこそ、差がつくのはAIの外側です。ある業界の商習慣を知っている、ある分野の専門用語が分かる、現場の困りごとを肌で知っている。そうした知識にAIを掛け合わせると、少人数でも、その分野の人が本当に欲しかったものを作れます。
医療、法務、会計、製造、物流、教育。どの分野にも、AIを使えばずっと楽になる仕事が残っています。その分野を知っている人が、自分の知識を持ち込んでAIで形にする。これが、いまの起業のいちばん手堅い入口だと感じています。
そして半導体
もう一つ注目しているのが、半導体です。
AIが広がるほど、計算をする半導体の需要は大きくなります。売上が伸び、利益も出そうな雰囲気が、業界全体にあります。AIを使う側の起業と並んで、AIを支える側の産業にも、新しい会社が入っていける余地が生まれています。
半導体というと、巨大な工場と巨額の投資を思い浮かべるかもしれません。もちろんそういう世界もあります。ただ、設計や検証、ソフトウェア、周辺の部材や装置など、少人数の専門家が切り込める領域も広がっています。ここでもやはり、ドメイン知識とAIの組み合わせが効いてきます。
起業の「eスポーツ化」とは
eスポーツの選手を見ていると、昔のスポーツ選手とは雰囲気が違います。根性や気合いで押し切るというより、道具と環境を整え、データを見て、淡々と、うまくこなす。それでいて、ちゃんと勝つ。
起業も、同じ方向に動いていると思います。大きなリスクを背負って、ガツガツと突き進むのではなく、カジュアルに、スマートに、いかにうまくこなすか。AIという道具を使いこなし、失うものを小さく抑えながら、手数を多く打つ。一つがだめでも、次に移ればいい。
昔の起業家には、「これを成し遂げるのだ」という強い目的がありました。それは素晴らしいことです。ただ、いまの若い起業家を見ていると、そこまで肩に力を入れていない人も多い。それでも、ちゃんと成果を出している。目的が先にあるというより、やってみて、うまく回るものを続けていく。そういう起業のしかたが、現実に成り立つようになってきました。
昔の起業を否定する話ではない
誤解してほしくないのは、これは昔の泥臭い起業を否定する話ではないということです。
借入をして、資金を集めて、汗をかいて会社を大きくしてきた人たちがいたからこそ、いまの産業があります。大きな工場や設備が必要な事業では、これからも泥臭い起業は必要です。
ただ、これから新しく起業を考える人、そしてその人たちを指導したり応援したりする側は、「起業とは大きなリスクを背負うものだ」というイメージを、少し更新したほうがいいと思っています。過去の起業のイメージをそのまま重ねて「そんな甘いものではない」と言うのではなく、スマートな起業という新しい波の側に、こちらが寄っていく。そのほうが、若い人たちの力を引き出せるはずです。
おわりに
起業は、もっとスマートに、シンプルにできるようになりました。AIで少人数で回し、利幅を厚くし、自分の専門知識を武器にする。失うものを小さく抑えて、うまくこなす。
もちろん、どんな起業にもリスクはゼロではありません。ただ、そのリスクの大きさを、自分で選べるようになった。それが、いちばん大きな変化だと思います。起業の「eスポーツ化」は、もう始まっています。
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