今夜もお付き合いいただきありがとうございます。10月11日のクオンタムビューです。今日は量子コンピュータ関連のニュースが全部で6本入ってきました。まずすべてを簡単にご紹介して、そのあと気になったものを詳しく見ていく形でお送りします。
本日の量子コンピューティング関連ニュースは6本です。まず、IBM、指示実行モデルとExecutorプリミティブを発表し、研究者にQECワークフローのクライアント側制御を提供。次に、IBM、Fortran、C++、Julia向けネイティブC APIバインディングでQiskitをPythonの枠を超えて拡張。続いて、QuICホワイトペーパー、EU Chips Act 2.0における産業規模拡大インフラを求める。さらに、Xanadu、高密度エンコーディングにより量子読み出し専用メモリのコストを約4分の1に削減。加えて、サスカチュワン大学の研究者が、モジュール式フォールトトレラントアーキテクチャ向けに記録的な双曲曲面符号効率を達成。そして、複数機関のコンソーシアムが主要ワークロードマネージャー全体での量子-HPC統合を標準化するためQRMIを拡張。以上6本です。この中から詳しく見ていくのは、1本目: QuICホワイトペーパー、EU Chips Act 2.0における産業規模拡大インフラを求める、2本目: 複数機関のコンソーシアムが主要ワークロードマネージャー全体での量子-HPC統合を標準化するためQRMIを拡張、3本目: IBM、指示実行モデルとExecutorプリミティブを発表し、研究者にQECワークフローのクライアント側制御を提供です。それでは、1本目からお伝えします。
では1本目です。欧州量子産業コンソーシアムQuICが、EUのChips Act 2.0という半導体関連の法律の提案に対してホワイトペーパーを出しました。量子チップの試作と量産の間のギャップを埋める産業化インフラを求めています。具体的には、複数企業でウェハーを共用するマルチプロジェクトウェハー・プログラムや、極低温試験施設、可視光・深紫外フォトニクスへの対応などを挙げています。QuICホワイトペーパー、EU Chips Act 2.0における産業規模拡大インフラを求める について、久保田さん、これは欧州の量子産業にとって何を変える動きなのでしょうか。
有沢さん、これは政策提言なので、すぐに何かの装置が動き出すわけではありません。ただ、欧州の量子チップの製造が今、EU域外の条件に依存しているという問題を、産業団体が正式に文章にした点は大きいです。QuICは、欧州の量子ハードウェア企業のほとんどが自社の工場を持たず、中立なファウンドリに頼っていると指摘しています。ここで言うファウンドリとは、半導体の製造を受託する工場のことです。この提言が通れば、試作だけでなく量産を見据えた共用ラインや試験設備が欧州の中にでき、調達の不安定性が下がる可能性があります。ただ、これはあくまで要望です。次に何が出れば決定的かというと、この提言が実際にChips Act 2.0の条文や予算に反映されたかどうかが確認できれば、話は前進します。
「中立なファウンドリ」という言葉が出てきましたね。これはつまり、特定の量子コンピュータ企業の系列ではなく、誰からも注文を受けられる受託生産工場、ということですね。つまり、欧州の量子チップづくりが海外の工場の都合に左右されないようにするための提言だ、ということですね。
続いて2本目です。IBM QuantumやPasqalなど複数機関のコンソーシアムが、量子コンピュータと従来のスーパーコンピュータを一緒に使いやすくするソフトウェア「QRMI」を拡張しました。SlurmやKubernetesなど6つの主要なワークロードマネージャーに対応し、CINECAやRPIなどのスーパーコンピュータ環境で実際に使われ始めています。複数機関のコンソーシアムが主要ワークロードマネージャー全体での量子-HPC統合を標準化するためQRMIを拡張 について、久保田さん、これは何を意味するのでしょうか。
有沢さん、これは量子コンピュータを、従来のコンピュータと同じ職場に置くための配線工事のようなものです。今までは、量子コンピュータを使いたい人は、専用の窓口に個別に申し込む必要がありました。QRMIという仲介役を挟むことで、スーパーコンピュータの予約システムが、CPUやGPUと同じ感覚で量子コンピュータも予約できるようになります。つまり、研究者が量子と従来の計算を一つの仕事としてまとめて流せるようになる。これが実際に何を変えるかというと、ハイブリッド計算の敷居が下がります。ただ、まだ示されていないのは、この仕組みがどれだけ多くの現場で標準になるかです。対応しているワークロードマネージャーは6つですが、実際に日常的に使われるには、各施設の運用ノウハウがもう少し蓄積される必要があるでしょう。
「ワークロードマネージャー」という言葉を言い換えると、コンピュータに「どの仕事を、どの順番で、どの機械に割り当てるか」を決める、いわば受付係ですね。つまり、量子コンピュータが特別な機械ではなく、普通の計算資源と同じように扱われる一歩になった、ということですね。
では3本目です。IBM Quantumが、指示実行モデルという新しい実行の枠組みと、Executorプリミティブという部品を発表しました。これまでサーバー側で自動処理されていた誤り訂正のロジックを、研究者が自分の側で直接制御できるようになります。確率的誤り取消という手法でサンプリングのオーバーヘッドを3.4倍削減し、距離5の表面符号で論理誤り率を最大2.8倍削減したと報告されています。IBM、指示実行モデルとExecutorプリミティブを発表し、研究者にQECワークフローのクライアント側制御を提供 について、久保田さん、これは何が前進したのでしょうか。
有沢さん、これは量子コンピュータの「ゆがみの直し方」を、利用者が自分で選べるようにした話です。量子コンピュータは計算中にどうしても誤りが入ります。今まではその補正の方法がサービス側の箱の中に隠れていて、利用者は中身をいじれませんでした。指示実行モデルでは、その補正の手順を利用者の手元に移して、自分の回路に合わせて調整できます。これで何が変わるかというと、誤り訂正の研究をしている人たちが、自分の仮説を直接ハードウェアで試せるようになります。報告されている3.4倍や2.8倍という数字は、特定の条件下での改善です。まだ示されていないのは、この柔軟な制御が、一般の利用者が日常的に使う高水準のツールにまで反映されるかどうかです。そこが次に見たいところです。
「クライアント側」という言葉を、ここでは「利用者の手元側」と言い換えられますね。今までお任せだった誤りの補正を、自分で調整できるようになった。つまり、誤り訂正の研究者が実験しやすい土台が整った、ということですね。
今日の3本を並べてみると、共通しているのは「量子コンピュータをどうやって社会の計算基盤に組み込むか」という視点です。欧州の産業政策は、ものづくりの土台を整えようとしています。QRMIの拡張は、既存の計算センターへの受け入れを進めています。IBMの実行モデルは、ソフトウェアの使い勝手を研究者の手に渡そうとしています。技術的な難しさはそれぞれ違いますが、いずれも量子コンピュータを実験室の外に出すための準備です。ただ、これらはまだ別々に動いていて、一つの流れにまとまったとは言えません。次に見ておくべきは、この3つの動きが、実際の産業界の案件で組み合わさって使われる事例が出てくるかどうかです。
最後に、今日の米国市場です。10月9日の終値で、量子関連の10銘柄のうち上昇は2つ、下落は8つで、平均では1.29%の下落でした。いちばん上げたのはIonQでプラス1.12%、いちばん下げたのはArqitでマイナス6.51%でした。
今日は、量子コンピュータを社会の計算基盤に組み込むための準備が、政策と技術の両面で進んだ一日だった、というお話でした。それではまた明日の夜、この時間に。おやすみなさい。




