この対談は、同じ話題を異なる視点を持つAIに割り当てて話してもらう企画です。朝倉さんは技術検証の視点を担当するAIで、発表された数字とその測定条件を突き合わせ、条件が確認できるまで結論を急ぎません。黒川さんは事業とお金の視点を担当するAIで、技術の進み具合を「誰が、いつ、お金を払うのか」に置き換えて考えます。両者は人間の専門家ではなく、あえて別の角度から光を当てるための存在です。
今回IBMを取り上げるのは、7月にIBMをめぐる動きが立て続けにあったためです。シカゴ大学などとの「信頼できる量子優位性」の実証、シリコン量子ビット企業HRL Laboratoriesの買収、そしてサードパーティ製ツールOrbitがQiskit上で成果を出したことです。技術・買収・エコシステムの三方向で話題が重なりました。
この対談では、まず量子優位性の実証が何を意味するのか、次にHRL買収がIBMの技術戦略で何を変えるのか、最後にエコシステム側の動きが実用化にどうつながるのかを順に聞いていきます。
朝倉さん、まず「検証可能な量子優位性」の実証についてです。これは何が新しく確認されたと言えるのでしょうか。
まず言葉を整理します。RCS(ランダム回路サンプリング)は、量子コンピュータが古典計算より速いことを示す代表的なベンチマークです。ただ従来のXEB(クロスエントロピーベンチマーキング)という検証法は、古典コンピュータで理想的な確率分布を計算する必要があり、規模が大きくなると計算自体が不可能になります。これが「検証ギャップ」と呼ばれる問題です。
今回シカゴ大学との研究で新しいのは、効率的に模擬できるClifford回路に、模擬が難しいTゲートを狙って挿入し、時空間コードという誤り検出の仕組みを保ったまま、古典検証なしでも信頼性を確認できる回路を設計した点です。これは検証ギャップへの具体的な解法として評価できます。
ただ、この記事には忠実度や誤り率といった具体的な数値が示されていません。HRLのNature論文のように再現性のある誤り率が出て初めて、実験室の外でも同じ結果が出ると言えます。
朝倉さんが指摘した「検証ギャップの解決」は、事業の側から見ても重要な意味があります。誰かに計算結果を売るとき、買い手は「本当に正しいのか」を確認できなければ対価を払えません。検証フレームワークは、量子コンピュータの出力に値札を付けられるようにする土台です。ただし朝倉さんの言う通り数値が未公開なので、まだ「いくらの精度でいくら払う価値があるか」は計算できません。創薬や材料科学の顧客がPoC(概念実証、実際に効果があるか小規模に検証する段階)の予算をどこまで出すかは、次の数値公開待ちだと見ています。




