8月15日のクオンタムビュー、始まります。この24時間に入ってきた量子関連ニュースは全部で10本です。まずは10本をざっと一覧でご紹介し、そのあと気になったものを久保田さんと詳しく見ていきます。
まずアルゴリズムや誤り訂正まわりの研究から4本です。量子カーネル法の弱点を克服する「McQuack」——学習可能・多クラス対応・線形スケーリングを実現は、IBMの124量子ビット実機で検証された新しい量子カーネル法の手法です。アナログ論理回転ゲートの誤りを抑える新技術「バランス融合」——早期耐障害性量子計算への一歩は、AWSの研究者が回転ゲートの誤りを抑える技術を提案したという内容です。シンドロームだけを機械学習し、量子誤り訂正の信頼性を高める新手法は、QuEra社の中性原子プロセッサの実データでも効果を確認した誤り訂正の新手法です。リモートエンタングルメントはもうボトルネックではない:モジュール型イオントラップ量子計算への新アーキテクチャは、MITのチームがモジュール型イオントラップ量子コンピュータのモジュール間接続を大幅に改善したという発表です。
続いてハードウェアの実験成果から1本、Rice Universityの研究者がイオントラップ量子シミュレータにおいて調整可能な有限温度リザーバーを実現は、ライス大学が中間温度での精密な量子シミュレーションを可能にしたという報告です。
次に地域・人材育成の動きを3本まとめてお伝えします。Tamil Nadu州、Vetri Conclaveで4つの量子コンピューティングベンチャーと覚書を締結は、インドのTamil Nadu州が4社と覚書を締結し研究開発拠点を設立するという発表です。Mountain West地域のQuantum Alliancesが統一されたイノベーション・試験施設ネットワークを形成は、コロラド・ワイオミング・モンタナの3州が量子光学分野で試験施設ネットワークを構築したという内容です。Florida State University、フロリダ州初の量子情報科学・技術の大学院資格認定プログラムを開始は、フロリダ州立大学が州内初となる大学院プログラムを開始するという発表です。
最後に企業の実証実験を2本です。Mitsui & Co.とMitsubishi ElectricがQuantinuum Helios上で近似QFTと論理QFTをベンチマークは、三井物産と三菱電機がQuantinuumの98量子ビット機で量子フーリエ変換を検証したという内容です。Quantinuum、NVIDIA、PfizerがGenerative Quantum AI(GenQAI)フレームワークを製薬研究開発において検証は、3社が製薬向けの量子回路自動生成フレームワークを検証したという発表です。
以上10本です。この中から、MITのモジュール型イオントラップの新アーキテクチャ、QuantinuumとNVIDIA、Pfizerの製薬研究における検証、Tamil Nadu州の量子ベンチャーとの覚書締結の3本を詳しく見ていきます。まずは1本目、MITのモジュール型イオントラップの話から参ります。
リモートエンタングルメントはもうボトルネックではない:モジュール型イオントラップ量子計算への新アーキテクチャについてです。MITのIsaac Chuangさんらのチームが、モジュール型イオントラップ量子コンピュータのモジュール間接続を改善する新しい設計を提案しました。ベル対、つまり2つの量子ビットがもつれた最も基本的なペアの正確さについて、99.9%の忠実度を達成可能と見積もっています。
久保田さん、このモジュール間の接続というのは、これまで具体的にどれくらい性能が足りていなかったのでしょうか。
一言で言うと、モジュール間をつなぐ速度と正確さが、チップ内の演算と同じ土俵に乗ったということです。これまでは接続の忠実度も速度も、チップ内演算に比べて100倍見劣りしていました。今回の見積もりでベル対忠実度99.9%まで届くなら、その差は大きく縮まります。ただしこれはまだ設計上の見積もりです。実機での達成はまだ示されていません。次に見たいのは、実際のチップでこの数字が再現されるかどうかです。先ほど有沢さんが挙げた誤り訂正の研究群とも、耐障害性という同じ方向を向いている点は興味深いところです。
「同じ土俵に乗った」というのは、モジュール間の接続の性能が、チップの中の演算と肩を並べるくらいまで良くなった、という意味です。つまり、モジュール間のもつれ生成はもはや弱点ではなく、あとはチップ内の演算をどう改善するかが焦点になった、ということですね。
Quantinuum、NVIDIA、PfizerがGenerative Quantum AI(GenQAI)フレームワークを製薬研究開発において検証についてです。3社の研究チームが、量子回路を自動でつくる仕組みGenQAIを検証しました。生成AIモデルのADAPT-GQEを使うと、従来の手法に比べて回路をつくる時間が3桁から4桁、つまり1000倍から1万倍近く短縮されたということです。それでいて精度は同等以上で、Quantinuumの98量子ビットのイオントラップ型ハードウェア「Helios-1」上で実際に動かして確かめています。
久保田さん、この「回路生成時間を3桁から4桁削減」という数字、具体的にはどんな作業がそれだけ速くなったということなのでしょうか。
分子の基底状態を求める回路づくりは、本来ADAPT-VQEのように各ステップで大量の演算子勾配を計算し、少しずつ回路を組み立てる作業でした。今回は生成AIが一回の推論でその回路構造をまとめて提案する形に置き換わり、生成時間が3〜4桁縮んだという結果です。ただ検証対象はまだ12から16量子ビットの活性空間です。より大きな分子、実際の創薬候補に近い規模でも同じ速さと精度が保てるかは、まだ示されていません。
「活性空間」というのは、分子の中で計算対象として扱う電子や軌道の範囲のことです。つまり、AIが回路づくりを一瞬で済ませても、それが試せているのはまだ小さな分子規模だけ、ということですね。
Tamil Nadu州、Vetri Conclaveで4つの量子コンピューティングベンチャーと覚書を締結についてです。インドのTamil Nadu州政府が、量子技術ベンチャー4社と覚書を締結しました。州内に超伝導量子ハードウェアや制御システムの研究開発拠点、製造施設を新設する内容です。今回の締結は、総額6兆7000億ルピー、日本円にして約80億ドルにのぼる97件の投資協定の一部として発表されました。
久保田さん、今回はまだ覚書の締結、つまり拠点をつくるという合意の段階かと思います。ここから実際に量子ハードウェアの開発が動き出したと言えるには、次にどんな数字や発表が出てくる必要があるでしょうか。
今回変わったのは、拠点をどこに建てるかという合意ができた点です。Quantum Integrated MachinesがIGCARと組んで超伝導QPUの拠点をChengalpatに置く、Quntrolsphereが制御エレクトロニクスを担う、というように役割分担も見えてきました。ただ、いつまでに何量子ビットのチップを作るのか、具体的な性能目標はまだ示されていません。次に決定的なのは、どこかの拠点から最初のチップ試作や量子ビット数の発表が出ることです。それが出て初めて、今回の合意が実際のハードウェア開発に変わったと言えます。
「役割分担」というのは、どの会社が何を担当するかがはっきりした、という意味です。つまり、拠点の場所と担当は決まったけれど、性能の数字が出るのはこれからだ、ということですね。
3本を並べると、方向はばらばらです。MITは接続の弱点を設計の見積もりで縮め、Quantinuumらは回路づくりの時間を実機で確かめ、Tamil Nadu州はまず拠点の場所と役割分担を決めました。研究の進展、実証の確認、投資の枠組みと、段階も対象も違います。次に見るべきは、この3つのうちどれかが次の段階、つまり実機での再現、より大きな分子での実証、最初のチップ試作の発表に進むかどうかです。
久保田さんが挙げた三つの次の一歩、実機再現、より大きな分子実証、最初のチップ試作、どれが動くか。明日の夜もこの時間にお伝えします。



