8月17日の「クオンタムビュー」です。この24時間に入った量子関連ニュースは全部で8本。まずは8本をざっと一気にご紹介して、そのあと気になったものを久保田さんと詳しく見ていきます。
それでは8本、まとめてご紹介します。
まず量子計算の信頼性や品質保証に関する研究から3本です。古典的な答え合わせができなくても量子計算を信頼できるか——「独立検証」の枠組みを提案は、古典コンピュータで正解を計算できない領域でも、量子計算の結果を検証する新しい枠組みを提案しました。IBMら、検証可能な高フィデリティで「難しい回路」をサンプリング——量子優位性の実証に新手法は、70量子ビット・深さ70の回路で、95%信頼度のフィデリティ下限0.284を検証可能な形で達成しました。AIが実用的な量子誤り訂正符号を自動発見——「OmniQEC」が既存の有力符号を上回るは、大規模言語モデルを使って量子誤り訂正符号を自動発見するシステムが、既存の有力な符号を上回る成果を出しました。
続いて、実機を使った実証実験が3本です。実配備の中空コアファイバー網で量子テレポーテーションを実証――古典通信との共存に成功は、中国・成都市の実際のファイバー網で、古典通信と共存しながら量子テレポーテーションに成功しました。IBM量子コンピュータで実証:誤り検出符号による量子シミュレーションの精度向上は、IBMの実機で誤り検出符号を使い、イジング模型のシミュレーション精度を大きく高めました。誤り緩和で量子コンピュータを「科学計測器」に:74量子ビットで前熱的フロケ振動を高精度観測は、IBMの74量子ビット機で、新しい物理現象の観測に量子コンピュータが使える可能性を示しました。
最後に、応用と産業の動きが2本です。NVIDIA CUDA-QとIQM実機で40量子ビットへ ― EUVフォトレジスト化学に挑む量子計算パイプラインは、NVIDIAとIQMの実機を組み合わせ、材料の量子化学計算を最大44量子ビットまでスケールさせました。The Company LabがCO.LAB Q Commercialization Studioを立ち上げ、量子スタートアップをスケールは、米国のアクセラレーターが量子スタートアップを支援する12ヶ月間のプログラムを立ち上げ、2026年11月に開始します。
この中から今日は、IBMら、検証可能な高フィデリティで「難しい回路」をサンプリング、実配備の中空コアファイバー網で量子テレポーテーションを実証、The Company LabがCO.LAB Q Commercialization Studioを立ち上げの3本を詳しく見ていきます。まずは1本目からです。
IBMら、検証可能な高フィデリティで「難しい回路」をサンプリングについてです。IBMとシカゴ大学の研究チームが、70量子ビット・深さ70の回路を量子誤り訂正符号に組み込み、エラー率を10分の1に抑えたうえで、95%の信頼度でフィデリティの下限0.284を証明可能な形で達成しました。
久保田さん、この「フィデリティ0.284」という数字と、それが検証可能な下限として示されたという点、どう受け止めればよいのでしょうか。
一言でまとめると、量子優位性の主張に「証明書」を付けられるようになった、ということです。0.284という数字自体は、理想的な計算結果に対してどれだけ近い分布が得られたかの下限で、1に近いほど良い指標です。ここでは「95%の確率で、少なくともこの値以上は保証できる」という形で示されている点が重要です。これまでは代替指標に頼るしかなく、装置への仮定が強すぎるという批判がありました。今回はその仮定を弱めたまま下限を証明できた点が前進です。まだ示されていないのは、この検証方式がより大規模な量子ビット数や、より実用的な計算問題でも同じように成立するかどうかです。先ほど有沢さんが紹介された独立検証の枠組みとも、検証の考え方という点で近い方向を向いていると言えます。
「証明書」というのは、計算結果の品質を保証する数学的な裏付けのことですね。つまり、少ない前提条件でも「これだけの精度は確実に出ている」と第三者が確認できるようになった、ということですね。
実配備の中空コアファイバー網で量子テレポーテーションを実証――古典通信との共存に成功についてです。中国・成都市に実際に敷設された中空コアファイバーを使い、都市内3拠点を結ぶ回線で量子テレポーテーションが実証されました。この回線の雑音は従来のファイバーに比べて約1000分の1に抑えられており、最大160ミリワットという強さの古典通信の光を同時に流しながらの成功だったとのことです。
久保田さん、雑音が3桁も少ないという点と、能動的な安定化なしに長時間の実験ができたという点、この2つは実用化に向けてどれくらい大きな意味を持つのでしょうか。
一言でまとめると、量子ネットワークを新設せず既存の通信網に相乗りできる見通しが立った、ということです。雑音が3桁減ったことで、量子光子の量子的な性質を長時間保つための特別な制御がいらなくなりました。これは電車の混雑した路線に静かな専用車両を増結できたようなもので、既存インフラをそのまま使える強みになります。まだ示されていないのは、3拠点より先、都市間や広域での多ノード接続でも同じ安定性が保てるかです。そこが実証されれば、量子インターネットの現実的な設計図に近づきます。
「静かな専用車両」というのは、既存の通信回線の中に量子通信を通しても、周りの通信ノイズに邪魔されにくい状態を指していますね。つまり、新しい設備を作らなくても、今の光ファイバー網の中で量子通信と通常の通信を同時に流せる可能性が見えてきた、ということですね。
The Company LabがCO.LAB Q Commercialization Studioを立ち上げ、量子スタートアップをスケールについてです。米国Chattanoogaのスタートアップアクセラレーター、The Company Labが、量子技術の商用化を支援する12ヶ月間のプログラムCO.LAB Qを立ち上げました。2026年11月に第1期を開始予定で、Quantinuumが量子プロセッサへのアクセスを提供するほか、Davidson Technologiesが国防分野、University of Tennessee at Chattangaが学術面を支援します。
久保田さん、量子コンピューティングからサイバーセキュリティ、量子ネットワークまで幅広い分野を対象にしたプログラムということですが、こうした産業支援の枠組みが立ち上がることは、研究成果が実際のビジネスにつながる流れの中でどんな意味を持つのでしょうか。
一言でまとめると、量子技術を研究室からビジネスへ渡す「橋」が一つ増えた、ということです。実際に変わるのは、スタートアップがQuantinuumの実機やNexusクラウド、国防・電力・学術それぞれの現場データに、個別に契約を結ばずアクセスできるようになる点です。まだ示されていないのは、このプログラムから実際に商用契約や資金調達につながる企業が出てくるかどうかです。今日ご紹介したIBMら、検証可能な高フィデリティで「難しい回路」をサンプリングや実配備の中空コアファイバー網で量子テレポーテーションのような技術的な前進が、こうした支援の枠組みを通じて製品に変わっていくかが次の見どころです。
「橋」というのは、大学や研究段階の技術を、実際に使える製品やサービスに変えていく仕組みのことですね。つまり、スタートアップが個別に交渉しなくても量子技術や国防・電力の現場に触れられる場ができた、ということですね。
今日の3本は方向がばらばらです。IBMらの研究は計算の信頼性を証明する話、成都の実証は既存インフラへの相乗り、CO.LAB Qは技術を製品に変える支援体制の話でした。技術の土台、通信の実装、事業化という別々の層が同時に動いているだけで、1本の線には無理にまとめられません。次に見るべきは、IBMらの検証方式がより大きな量子ビット数でも成立するかどうかです。それが出れば、今日示された下限0.284の意味が変わってきます。
検証、通信、事業化と層の異なる前進が並んだ一日でした。明日の夜も同じ時間に「クオンタムビュー」でお会いしましょう。




