「量子アニーリング方式とゲート方式、結局どっちがすごいの」と聞いたことがあるかもしれません。実はこの2つ、得意なことがまったく違います。優劣を競い合うライバルというより、道具箱の中の別の工具だと考えると分かりやすいです。今回はその違いと、それぞれの向き不向きを見ていきます。
まず量子アニーリング方式の仕組みです。超伝導素子でできた小さなループを量子ビットとして使います。このループには、電流が右回りと左回りの両方の状態が同時に存在できるという性質があります。解きたい問題は、量子ビット同士のつながり方として装置に書き込みます。そして磁場をゆっくり弱めていくと、全体がエネルギーの低い状態、つまり答えに近い状態へ自然に落ち着きます。凸凹の坂にボールを置いて、揺らしながら一番低いくぼみまで転がすようなイメージです。ただし実際は量子力学の効果を使うので、単なる物理のボールとは仕組みが違います。
一方のゲート方式は、発想がまったく別です。こちらは1つ1つの量子ビットに、決まった操作を順番にかけていきます。古典のコンピュータでANDやORといった論理ゲートを組み合わせて計算するのと似た考え方です。量子版のゲートを回路として組み立て、任意の計算を表現できるのが特徴です。つまりゲート方式は、原理上どんな問題にも対応できる万能さを持っています。
この万能さと引き換えに、ゲート方式には別の難しさがあります。量子ビットの数を増やしても、ノイズに弱くエラーが起きやすいという課題です。これに対して量子アニーリング方式は、最初から「答えを探す」という万能な計算をしません。その代わり「エネルギーが下がる先に自然に落ち着かせる」という、限られた種類の問題に特化しています。この特化ぶりが、実は強みにもなっています。
その強みが発揮されるのが、組合せ最適化と呼ばれる問題です。組合せ最適化とは、たくさんの選び方の中から一番良い組み合わせを探す問題です。配送ルートを決めたり、通信網の設定を決めたりする作業がこれにあたります。こうした問題は、QUBO(制約なし二次二値最適化)という共通の書き方に直せます。QUBOに直せる問題なら、幅広く同じ装置で扱えるというのが量子アニーリング方式の強みです。
逆にゲート方式は、化学反応のシミュレーションや暗号解読など、もっと幅広い計算を狙えます。ただしその分、エラー訂正の仕組みを整えるまでに時間がかかっています。量子アニーリング方式のほうは、答えが本当に最良かどうかを理論的に保証する仕組みがない、という弱みを抱えています。だからこそ、古典のコンピュータと同じ問題で比べて、本当に得意なのかを確かめる作業が欠かせません。
この違いは、いまの業界の動きにそのままつながっています。NTT DOCOMOとD-Wave Quantum Inc.の事例があります。この事例では、通信ネットワークのトラッキングエリアの設定を最適化しています。位置登録のシグナリングを65.3%、ページングの負荷を7.0%減らしたと報告されています。これは組合せ最適化という、量子アニーリング方式が得意な問題そのものです。一方でゲート方式を使うQAOAという手法も、同じ種類の問題に挑んでいます。その現状はQUBO変換とQAOA・アニーリングの現状整理で詳しく扱われています。しかし、実際の配送規模で古典を上回った、という報告はまだありません。
比較を公平にしようという動きも進んでいます。QOBLIB(Quantum Optimization Benchmarking Library)というものがあります。これは組合せ最適化の問題を集めた取り組みです。量子・古典・ハイブリッドの手法を同じ土俵で比べられるようにしています。こうした共通の物差しがあれば、より正確に答えられるようになります。例えば「量子アニーリングは本当に速いのか」「ゲート方式のQAOAはどうか」という問いです。業界全体の最新の動きは週報でも追いかけられます。
2つの方式の違いを一言でまとめます。ゲート方式は何でもできる万能さを目指す道具、量子アニーリング方式は最適化に絞って実用を急ぐ道具です。次回は、いま実際に動いている「NISQ」と呼ばれる機械と、目指されている耐障害性量子コンピュータの違いを見ていきます。
