Quoblyは、フランスのグルノーブルに拠点を置く量子コンピュータのスタートアップ企業です。同社は、シリコンスピン量子ビットと呼ばれる方式の量子プロセッサを開発しており、既存の半導体製造技術をそのまま活用できる点を強みとしています。量子コンピュータの実現方式はいくつかありますが、Quoblyは特に「半導体との親和性が高い」という特徴を持ち、将来の大規模化を見据えた戦略を取っています。
シリコンスピン量子ビットは、シリコン基板上に作った微小な電極で電子を閉じ込め、その電子の「スピン」と呼ばれる量子力学的な性質を量子ビットとして使う仕組みです。この方式の最大の利点は、現在の半導体工場で使われているCMOS(相補性金属酸化膜半導体)技術で製造できることです。つまり、コンピュータのチップを作るのと同じような工程で量子チップを作れるため、量産化やコスト削減が期待できます。Quoblyはこの技術を専門にしており、フランスの原子力・代替エネルギー庁(CEA)の研究所や半導体大手のSTマイクロエレクトロニクスと協力しながら、最先端の研究を進めています。
なぜこの企業が重要なのかというと、量子コンピュータを実用的なレベルに引き上げるには、数百万個以上の量子ビットが必要とされているからです。現在主流の超伝導量子ビット方式は性能は高いものの、装置が大きく冷却コストもかかるため、単純に数を増やすのが難しいという課題があります。一方、シリコンスピン方式は非常に小さく、既存の半導体技術で作れるため、自動車産業や家電製品に使われるような大量生産の仕組みに乗せやすいのです。Quoblyはこの「作りやすさ」を武器に、量子コンピュータの普及を目指す企業として注目されています。ただし、実用的な計算には量子誤り訂正が欠かせず、シリコンスピン方式でもその実現が課題です。
最近の動きとしては、2026年6月にシリーズAで1億1,500万ユーロを調達し、2026年末までに第1世代機をクラウドで提供し、2027年に設置型の出荷へ進む計画を示しました。2026年9月には、STマイクロエレクトロニクスの産業用300mm FD-SOIラインで作ったチップで、量子ビットの読み出しと1量子ビット・2量子ビットのゲートを1つのチップ上で実証したと発表しています。第1世代機「Alloy Pioneer」はOVHcloudでも提供される予定で、2032年までに100万量子ビット規模を目指すとしています。このほか、量子回路エミュレータの公開や、極低温冷却インフラの共同開発、CEA-Letiとの300mm試作ラインでの協力など、製造と周辺技術の両面で提携を広げています。
身近な例えで言えば、Quoblyのアプローチは「既存の自動車工場で電気自動車を作る」ようなものです。新しい工場をゼロから建てるのではなく、すでにある生産ラインを少し改造するだけで新しい製品を作れるので、導入のハードルが低くなります。よくある誤解として、量子コンピュータは超伝導方式しかないと思われがちですが、シリコンスピン方式も有力な候補の一つです。関連する用語としては「シリコンスピン量子ビット」「CMOS」「量子誤り訂正」などがあり、これらを一緒に学ぶと理解が深まります。




