私は「日本は半導体とAIで遅れを取ったから、量子コンピュータで挽回する」という考え方は成り立たないと考えています。これは敗者の思想です。すべての産業はつながっています。量子コンピュータだけを切り離して勝つことはできません。量子コンピュータは半導体の中に統合されていきます。そして需要のあるアプリケーションを詰めていくと、行き先はAIになります。この二つが同時に起きているのが、いまの局面です。
事実から確認します。IBMは2つの箱型クライオジェニックモジュールを接合し、15ミリケルビン未満の動作温度を達成したと発表しました。各セルは2.75立方メートルの内部真空容積と0.53平方メートルの配線用表面積を持ち、IBM Quantum System Oneの冷凍機と比較して最大12倍の配線スペースを実現するとしています。各モジュールセルは少なくとも2,000個の物理キュービットを収容・冷却できる設計です。ここで問われているのは、配線と冷却です。私はこれを装置産業の問題だと読みます。
材料の側も同じ方向を向いています。Cornell大学の研究チームは、クリプトンガスを使ってタンタル膜の基板堆積温度を400°C超から200°Cまで低下させました。狙いは明確です。標準的な商業用半導体ファウンドリのBack-End-of-Line工程に載せることです。量子ビットの研究が、既存の自動化ツールラインに入るための研究になっています。土俵は半導体です。
その土俵に工場を建てている国もあります。QpiAIはベンガルールに8インチのQPU製造施設を開設しました。最大128物理量子ビットのフリップチップ超伝導量子プロセッサを製造でき、2027年までに最大10,000物理量子ビットを含む単一QPUの製造を目指すとしています。同社はこれまでに2,000万〜2,500万米ドルを投資し、さらに1,000万〜1,500万米ドルを配分する計画です。量子で勝つために、ファウンドリを建てる。判断としてはまっすぐです。
AI側からの接続も始まっています。Quantum X LabsはNVIDIA CUDA-Qを用いたAIデコーダーで、Googleのサーフェスコード実験データセットにおいてPyMatchingを含むマッチング系ベースラインを上回るデコード精度を実証したと発表しました。誤り訂正という量子の中核が、AIとGPUで担われ始めています。入口の側も同じです。Leona Quantumは、自然言語で書いた指示から量子回路を生成し、実行し、保存して再利用するプラットフォームです。量子を使う入口が自然言語、つまりAIになりつつあります。
そのAIが押さえにいっているのは、電力と半導体です。Anthropicは650億ドルを調達し、Amazonから最大5ギガワット、GoogleとBroadcomによる次世代TPUで5ギガワットの容量を挙げています。OpenAIはNVIDIAと10ギガワット、AMDと6ギガワットの提携を発表しています。計算機そのものの勝負も、作り方で決まっています。Cerebrasは新機種CS-4で部品点数を50%減らし、製造の自動化を60%増やしたとしています。同社は最大30倍速い推論と主張していますが、これは同社が示したモデル群での比較であり、出どころには自社ベンチマークが含まれます。数字の扱いには注意が必要です。それでも、設計と製造の話であることは変わりません。
企業にとって、これが意味することははっきりしています。量子コンピュータだからといってゲームチェンジは起きません。むしろ基礎力のなさが露呈します。AI、半導体、ロボットを基礎から組み立てられない組織は、量子コンピュータでも勝てません。量子のチームだけを社内に置いても、配線も冷却も製造も誤り訂正もAIも外から買うのであれば、それは勝ち筋ではありません。
ですから、問題の立て方を変えるべきです。「量子で挽回する」ではなく、「AIと半導体とロボットを自分たちで組み立てられるか」を問うべきです。そのうえで量子コンピュータをその一部として置く。順番はこちらです。今年の年末ごろから、そういう時代が始まります。残された時間は長くありません。年末までに、自社が何を自前で作れるのかを棚卸ししてください。私はそこからしか始まらないと考えています。
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