量子コンピュータのアプリケーション開発は、いま生成AIによって非常に高速に進んでいる。そして私は、そう遠くないうちにプロンプトがいらなくなる時代が来ると考えている。
この見通しは、いまソフトウェア開発の現場で起きていることの延長線上にある。
ハーネスという仕組み
現在の生成AIの使われ方は、質問を投げて答えを受け取る形から、すでに一段先へ進んでいる。さまざまな道具やフレームワークをまとめ、その上でモデルを動かす仕組みが主流になった。この仕組みはハーネスと呼ばれている。
ハーネスの上では、ループエンジニアリングや自己改善エージェントと呼ばれるやり方が動く。人が一回ずつ指示を書くのではなく、モデルが自分で試し、結果を見て、書き直す。この繰り返しが自動で回る。
当サイトでも、DeepSeekがエージェントハーネス「dsh」をMITライセンスで公開した件が伝えられている。こうした仕組みが特定の企業の内側ではなく、誰でも使える形で出てきていることが重要だ。
量子アプリケーションも同じ流れに入る
量子コンピュータのアプリケーションも、ご多分に漏れずこの自己改善ループに入る。
すでにその入口は見えている。自然言語から量子回路を生成して実行する「Leona Quantum」のように、人が回路を書かずに済む道具が出てきた。Pasqalのエージェントは、指示だけで実験を回すところまで到達している。
私が注目しているのは、その先だ。ループが回るようになると、過去のデータや、いま使えるツールを客観的に判断できるようになる。何がどれだけ速いのか、どの手法がどの条件で有利なのかを、人が読んで判断するのではなく、仕組みが評価する。
つまり、パフォーマンスや性能の評価そのものが自動化され始めている。
過去の論文と比べて選ぶ
ここが最も大きな変化だと私は考えている。
量子アルゴリズムの研究は膨大な蓄積がある。しかし、その中からいま自分の問題に一番効くものを選び出すのは、人間には手に余る作業だった。論文を読み、実装し、比べる。ここに時間がかかりすぎていた。
生成AIと量子コンピュータがタッグを組むと、この工程が変わる。アプリケーションを自動で組み立て、過去の論文と比較してパフォーマンスの良いアルゴリズムを採用する。結果として、極めてパフォーマンスの高いアルゴリズムを作れるようになってきた。
同じ方向の成果は研究の側からも出ている。AIが実用的な量子誤り訂正符号を自動で発見し、既存の有力な符号を上回ったという報告がその一例だ。人が設計して人が比べる、という前提そのものが動いている。
学ぶべきものが変わる
だとすれば、これから量子コンピュータに関わろうとする人が身につけるべきものも変わる。
これまでは、プログラミングを学び、複雑な理論を学ぶことが入口だった。それが無駄になるとは言わない。だが、そこに時間を注ぐことの優先順位は下がると私は考えている。
代わりに見るべきなのは、この自己改善ループの仕組みそのものだ。ハーネスがどう組まれ、何を評価軸にして、どうやって次の一手を決めているのか。ここを理解している人が、これからのアプリケーションを作る。
プロンプトを上手に書く技術も、いずれ役目を終える。プロンプトがいらなくなるとは、そういう意味だ。人が言葉で指示を出す部分が、仕組みの内側に入っていく。
いま注目すべきこと
量子コンピュータの話題は、量子ビットの数や誤り率といったハードウェアの指標で語られることが多い。それはそれで重要だ。
しかし、アプリケーションの側でいま起きている変化は、それとは別の軸にある。生成AIの能力をハーネスとして使うことで、量子コンピュータのアプリケーションは大きく発展している。ハードウェアの進歩を待つ話ではなく、すでに始まっている話だ。
プロンプトがいらなくなる自己改善ループの仕組み。ここに注目していただきたい。
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