連載のはじめに
この連載では、安定した資産運用の作り方を、1つずつ丁寧に解説していきます。全何回とは決めずに、必要なことを積み上げていきます。ただし、ここで扱うのは「もうけ話」ではありません。むしろ、損をしないための考え方です。
この連載名には「量子コンピュータ」が入っていますが、心配はいりません。量子コンピュータや機械学習を触る必要はまったくありません。使うのは電卓と、自分の感覚だけです。
では、なぜ量子コンピュータが出てくるのでしょうか。量子コンピュータの研究の現場では、「その数字はどれくらい当てになるか」を測ることに、大変な手間をかけています。誤差をどう見積もるか。過去のデータに合わせすぎると、なぜ未来で外れるのか。そうした「数字の読み方」の考え方が、そのまま資産運用に効くからです。
リターンだけでは決められない
資産運用の結果を語るとき、よく「リターン」という言葉が使われます。たとえば「この投資信託は昨年10%のリターンでした」と言われたら、多くの人は「良い運用だった」と感じるでしょう。
しかし、リターンだけを見て判断するのは危険です。同じ「年10%」でも、中身がまったく違うことがあります。
リスクとは「振れ幅」のこと
ここで「リスク」という言葉を使います。資産運用の世界では、リスクとは「危険」という意味ではなく、「振れ幅」のことを指します。毎年プラス10%を続ける運用は、振れ幅が小さく、リスクが低いと言えます。一方、ある年は+30%、ある年は-20%という運用は、平均すれば同じ10%でも、振れ幅が大きく、リスクが高いと言えます。
リスクが高い運用は、途中で大きく下がる可能性があります。その下がり方に耐えられず、売ってしまうと、その後回復しても利益を得られません。つまり、リスクとは「自分が途中で投げ出してしまう可能性」でもあるのです。
100万円で具体的に見る
具体的な数字で見てみましょう。いま100万円を運用して、5年間の結果を比べます。
Aは、毎年プラス10%を続ける運用です。1年目110万円、2年目121万円、3年目133万円、4年目146万円、5年目161万円になります。
Bは、良い年に+30%、悪い年に-20%を交互に繰り返す運用です。1年目130万円、2年目104万円、3年目135万円、4年目108万円、5年目141万円になります。※実際には端数が出ますが、ここではおおよその金額で考えます。
AとBは、5年間の平均リターンがどちらも年10%です。しかし、最終的な金額はAが161万円、Bが141万円と、20万円の差がつきました。Bは途中で104万円まで下がる場面があり、そこで「もうダメだ」と売ってしまえば、100万円を割り込むことになります。
つまり、リターンが同じでも、振れ幅が大きいと、最終的に手にする金額が少なくなるのです。これが「リスク」の正体です。そして、この振れ幅の大きさを事前に知ることはできません。だからこそ、最初に「自分がどこまで耐えられるか」を決めておく必要があるのです。
過去は未来の約束ではない
「過去のリターンが良かったから、これからも良い」と考えるのは危険です。機械学習の分野では「過学習」という言葉があります。過去のデータに完璧に合わせすぎたモデルは、未来のデータでは当たらなくなる、という現象です。資産運用でも同じことが起きます。過去に好成績だった運用方法が、これからも同じように機能するとは限らないのです。過去の数字は、あくまで参考であり、約束ではありません。
まずは自分がどこまで耐えられるかを知る
資産運用を始める前に、自分がどれくらいの振れ幅に耐えられるかを考えてみてください。たとえば、あなたの資産が1年間で20%減ったとき、冷静でいられますか。そのとき、生活に影響はありませんか。もし耐えられないなら、振れ幅の小さな運用を選ぶべきです。
これは、性格の問題ではなく、資産運用の設計の問題です。投資は、必ず儲かるわけでも、安全でもありません。損をすることがあります。その前提で、自分に合った振れ幅を選ぶことが、安定した資産運用の第一歩です。
次回予告
次回は、「リスクを数字で測る」方法を解説します。今回の「振れ幅」を、具体的な数値で表すとどうなるのか。標準偏差という言葉は使いませんが、考え方をわかりやすくお伝えします。
※本記事は、特定の銘柄・商品・証券会社を推奨するものではなく、投資助言を目的としたものではありません。投資に関する最終的な判断は、ご自身の責任で行ってください。また、本記事の内容は情報提供であり、投資の成果を保証するものではありません。

