8月20日のクオンタムビュー、始めます。この24時間に入ってきたニュースは全部で9本です。まずは9本をざっと紹介して、そのあと気になったものを久保田さんと詳しく見ていきます。
8月20日のクオンタムビュー、9本のニュースを一気にご紹介します。
まずは原子・イオンを使った基礎研究から4本です。冷却原子向け超高速・高解像度の空間光変調システムを実証、ハーバード大のグループが原子を操作する光の当て方を非常に細かく制御できる装置を実証しました。高速非破壊読み出しで中性原子量子プロセッサのサブミリ秒サイクルを実現、100個の原子で読み出し時間を15マイクロ秒まで短縮したという発表です。omgアーキテクチャにおける回路中の基底状態冷却と補助イオン読み出しの実証、イオンを使った量子ビットで、動きを止める新しい冷却手法が実証されました。インダクタ保護型アンドレーフ(IPA)スピン量子ビットの提案、新しいタイプの量子ビットの設計が理論として提案されています。
続いて製造・材料に関する1本です。Cornell大学の研究者、クリプトンガススパッタリングを用いてタンタル量子ビットの堆積温度を200°Cまで低下、量子ビットを作る際の加熱温度を大きく下げる製法が発表されました。
そして企業や事業の動きが4本です。EigenQとSilicon Valley Acquisition Corp.、Form S-4提出により30億ドルのSPAC合併を前進、量子技術企業が株式市場への上場に向けた手続きを一歩進めました。Allot、創設産業・学術コンソーシアムを主導し、イスラエルのPost-Quantum Communications構想を始動、イスラエルで量子時代の暗号通信を守る新しい枠組みが始動しました。Diraq、シカゴのIQMP On-Ramp Hubに初の米国量子ラボを開設、オーストラリア発の量子ビット開発企業が米国に初の研究拠点を開きました。IBM、2029年のStarling量子コンピュータに向けてマルチチップアーキテクチャを拡張するためモジュール式クライオジェニックセルを接続、IBMが将来の大規模量子コンピュータに向けた冷却装置の新方式を実証しました。
以上、9本すべてです。この中から今日は、IBMのモジュール式冷却装置、EigenQのSPAC合併、Cornell大学のタンタル製造の3本を詳しく見ていきます。まずはIBMの発表から見ていきましょう。
IBM、2029年のStarling量子コンピュータに向けてマルチチップアーキテクチャを拡張するためモジュール式クライオジェニックセルを接続について見ていきます。IBMは2つのモジュール式冷却装置をつなぎ、15ミリケルビン未満という極低温を共有の環境で達成しました。配線スペースは従来比で最大12倍に広がり、2027年までに1000個以上のキュービットを持つシステムの土台にするとしています。
久保田さん、この「モジュール式クライオジェニックセル」というのは、これまでの冷却装置と何がどう違うのでしょうか。
一言で言うと、量子コンピュータの「冷蔵庫」を1台の円筒から、複数を横に連結できる箱形に作り替えた、という話です。従来は円筒形の冷凍機に1チップずつ入れていたため配線が窮屈でしたが、箱形にしたことで配線スペースが最大12倍に広がりました。これで複数チップを1000個以上のキュービット規模でつなぐ土台ができます。ただし今回示されたのは冷却と配線の器の部分だけです。実際にNighthawkプロセッサを載せてシステムとして動かし、チップ間の演算精度がどう出るかはこれからです。そこが次の節目になります。
「器」というのは、キュービットを載せて配線するための箱形の冷却装置そのものを指しているのですね。つまり、今回できたのは冷却と配線の土台作りまでで、実際にプロセッサを載せて動かす検証はこれからということですね。
EigenQとSilicon Valley Acquisition Corp.、Form S-4提出により30億ドルのSPAC合併を前進について見ていきます。量子技術企業EigenQと、特別買収目的会社であるSilicon Valley Acquisition Corp.が、米国証券取引委員会にForm S-4という登録届出書の草案を非公開で提出しました。この統合はEigenQの企業価値を約30億ドルと評価するもので、2026年第4四半期の完了を目指しています。
久保田さん、この「Form S-4を非公開で提出」というのは、上場に向けた手続きの中でどういう意味を持つ一歩なのでしょうか。
Form S-4の非公開提出は、上場に向けた社内締切に近い意味を持ちます。SPAC合併では、この書類がSECの審査を通り、株主承認を得て初めて上場が成立します。今回変わったのは、企業価値30億ドルという評価と統合スケジュールが、規制当局への正式書類として動き出した点です。まだ示されていないのは、SECの審査結果と株主承認の行方、そして詳しい財務内容です。ここが公開されれば、EigenQの技術がどこまで実証段階にあるか、判断材料が増えます。先ほどのIBMの話と違い、こちらは技術の節目ではなく事業体制の節目だという点は分けて見る必要があります。
「非公開提出」とは、書類を一般公開せずSECだけに先に見せて審査を始めてもらう手続きのことです。つまり、今回の提出は上場準備の一区切りであり、SECの審査や株主承認、詳しい財務内容の公開はまだこれから、ということですね。
Cornell大学の研究者、クリプトンガススパッタリングを用いてタンタル量子ビットの堆積温度を200°Cまで低下について見ていきます。Cornell大学の研究チームは、量子ビットの材料であるタンタルの膜を作る際、これまで使っていたアルゴンガスの代わりにクリプトンガスを使うことで、必要な基板の加熱温度を400°C超から200°Cまで下げることに成功しました。品質係数という量子ビットの性能を示す指標も、最大1690万を達成しています。
久保田さん、この「加熱温度を下げられた」ということが、量子ビットを大量に作る現場にとってどうして重要なのでしょうか。
温度を下げられたのは、半導体工場の設備がそのまま使えるようになるからです。半導体を作るBEOLという後工程の配線工程は、400°Cを超える熱に耐えられません。今回200°Cまで下がったことで、CMOS回路の上に量子ビットを重ねて作る道が開けます。品質係数も1690万まで出ており、性能を犠牲にしていません。まだ示されていないのは、実際にファウンドリの量産ラインで再現できるかどうかです。研究室の1枚のチップと、量産ラインでの歩留まりは別問題です。先ほどのIBMの話が「大きく増やす箱」だとすると、こちらは「一つ一つの部品を安く量産する道」の話だと言えます。
「BEOL」とは、半導体チップの配線を仕上げる後工程のことです。つまり、温度を下げられたことで既存の工場設備がそのまま使え、量産への道が開けたということですね。
今日の3本は、正直ばらばらの動きです。IBMは大きく積む箱を作り、EigenQは上場という別の土俵を進め、Cornellは一つ一つの部品を安く作る道を開きました。ハードウェアの規模、資金調達、製造コストと、狙っている場所が違います。強いて言えば、どれも「まだ器や手続きの段階」という共通点はあります。次に見るべきは、IBMがNighthawkプロセッサを実際に載せて動かした結果です。そこで初めて、この箱が本当に機能するかが分かります。
IBMの箱が実際に機能するかどうか、次の実証を待ちたいと思います。明日の夜もこの時間に、クオンタムビューでお会いしましょう。




