前回のおさらい
前回は、同じ年10%の平均リターンでも、振れ幅が大きいと最終的に手にする金額が減ることを、AとBの例で見ました。Aは毎年+10%、Bは+30%と-20%を交互に繰り返す運用で、5年後はAが約161万円、Bが約141万円になりました。
今回は、この「振れ幅の大きさ」を、どうやって1つの数字に表すかを考えます。
「振れ幅が大きい」を数字にするには
「振れ幅が大きい」とは、簡単に言えば「平均から遠くへ行ったり来たりしている」ということです。そこで、まず各年の結果が「平均からどれだけ離れているか」を測り、その「離れ方」の平均をとれば、振れ幅の大きさを1つの数字にできます。
具体的には、次の3つのステップです。
- 各年のリターンの平均を出す
- 各年のリターンから平均を引いて、「平均からの離れ具合」を出す
- その離れ具合を全部足して、年数で割る
ただし、単純に足すと、プラスの離れとマイナスの離れが打ち消し合ってしまいます。Bの例で言えば、平均から+20だけ離れた年と、-30だけ離れた年があります。プラスの離れとマイナスの離れをそのまま足すと、互いに打ち消し合って、振れ幅が小さいように見えてしまいます。
そこで、離れ具合を「2乗」してから足します。2乗すると、プラスもマイナスも全部プラスになります。そして、その平均をとり、最後に「2乗を戻す」ために平方根を取ります。この計算で得られる数字を、ここでは「ばらつきの大きさ」と呼ぶことにします。難しい名前は使いません。
AとBで実際に計算してみる
では、前回のAとBで計算してみましょう。
Aの場合:毎年+10%なので、5年間のリターンは「10, 10, 10, 10, 10」です。
- 平均は10%です。
- 各年の平均からの離れ具合は、全部「10-10=0」です。
- 2乗しても全部0です。足しても0です。5で割っても0です。平方根を取っても0です。
つまり、Aのばらつきの大きさは0%です。毎年同じ結果なので、当然ですね。
Bの場合:リターンは「+30, -20, +30, -20, +30」です。
- 平均は「(30-20+30-20+30)÷5 = 50÷5 = 10%」です。前回と同じく年10%です。
- 各年の平均からの離れ具合を出します。
- 1年目:30-10 = +20
- 2年目:-20-10 = -30
- 3年目:30-10 = +20
- 4年目:-20-10 = -30
- 5年目:30-10 = +20
- それぞれを2乗します。
- 20の2乗 = 400
- -30の2乗 = 900
- 20の2乗 = 400
- -30の2乗 = 900
- 20の2乗 = 400
- 全部足します。400+900+400+900+400 = 3000です。
- 5で割ります。3000÷5 = 600です。
- 最後に平方根を取ります。600の平方根は約24.5です。
つまり、Bのばらつきの大きさは約24.5%です。
これで、Aの振れ幅は0%、Bの振れ幅は約24.5%と、数字で比較できるようになりました。「BはAより24.5ポイント分、振れ幅が大きい」と言えます。
この数字が教えてくれること/教えてくれないこと
この「ばらつきの大きさ」は、過去のリターンがどれだけばらついていたかを示しています。Aのように0%に近いほど安定していた、Bのように大きいほど変動が激しかった、ということがわかります。
ただし、これはあくまで過去の話です。過去の振れ幅が小さかったからといって、未来も小さいとは限りません。また、過去の振れ幅が大きかった運用が、未来も必ず大きいわけでもありません。この数字は「この運用は、これまでこういう動き方をしてきた」という参考情報に過ぎません。
さらに、この数字は「上下の振れ幅」を対称に扱っていますが、実際の投資では下がるときの痛みの方が大きいものです。この数字が大きい運用は、下がる可能性もそれなりにある、と理解しておくべきです。
量子コンピュータの現場では
ここまで見てきた「平均からの離れ具合を2乗して平均する」という計算は、
資産運用だけのものではありません。同じ計算が、量子コンピュータの世界でも使われています。
しかも、ただ使われているだけではありません。運用の世界では、複数の資産を組み合わせたときに
「この2つは一緒に動くのか、逆に動くのか」を表す数字の集まりを扱います。
これが、量子コンピュータで扱う「量子ビット同士のつながり」と同じ形をしているのです。
そのため、資産の組み合わせを選ぶ問題は、量子コンピュータに載せやすい問題の一つとして、
早い時期から研究に取り上げられてきました。
ただし、いま読者が量子コンピュータを使う必要はまったくありません。
大切なのは、「ばらつきを測る」という同じ道具が、まったく違う分野でも使われているということです。
それだけこの考え方が基本的なもので、覚えておく値打ちがある、ということでもあります。
量子コンピュータの研究では、測定結果のばらつきを見るために、同じ測定を何度も繰り返します。
1回の測定だけでは、偶然の誤差なのか本当の性質なのか判断できないからです。
この「繰り返して確かめる」という姿勢も、資産運用で過去のデータを振り返るときと同じです。
過去のリターンがたまたま良かっただけかもしれない、という疑いの目を持つことが大切です。
次回予告
次回は、「このばらつきの大きさをどう使うか」を解説します。具体的には、リターンとばらつきの大きさを一緒に見ることで、運用の良し悪しをどう判断するかです。同じリターンでも、ばらつきが小さい方が効率的だと言えますが、その意味を詳しく見ていきます。
※本記事は、特定の銘柄・商品・証券会社を推奨するものではなく、投資助言を目的としたものではありません。投資に関する最終的な判断は、ご自身の責任で行ってください。また、本記事の内容は情報提供であり、投資の成果を保証するものではありません。

