9月30日のクオンタムビューです。今夜は、量子コンピュータ関連のニュースが全部で16本入ってきました。まず全体をざっとご紹介し、そのあと気になったものを詳しく見ていきます。
まず研究の動きから3本です。単一の超伝導量子ビットと共振空洞を使い、グローバー探索アルゴリズムを量子センシングに応用するプロトコルを実験実証したという グローバーアルゴリズムを用いた量子計算強化センシングの実験実証。レーザー捕捉された円形リュードベリ原子で、スピン交換相互作用を従来より一桁長い60マイクロ秒以上にわたって観測したという 円形リュードベリ原子の長時間スピン交換相互作用とスピン運動結合の観測。そして、量子コンピュータで最適化問題を解く技術の基礎を解説した 量子最適化とは? です。
続いて米国の助成金と拠点開設の動きです。NSFが分散型の量子センサーネットワーク研究のため、ストーニーブルック大学とハワイ大学マノア校に60万ドルを授与したという NSF、分散型量子インテリジェントセンサーネットワークの進展に向け、ストーニーブルック大学とハワイ大学マノア校に60万ドルを授与。UCサンタバーバラ校の研究者らが、総額2億9000万ドルのNSFプログラムに参加するという UCサンタバーバラ校の研究者らが、2億9000万ドルのポートフォリオ更新のもと3つのNSF Quantum Leap Challenge Institutesに参加。Diraqがニューメキシコ州に研究開発ラボを設立し、DARPAの目標達成を目指すという Diraq、DARPA QBIの目標達成に向けニューメキシコ量子研究開発ラボで米国展開を拡大。そしてアルバカーキに35,000平方フィートの量子施設が開設され、QuEraやIonQなど15社が参加するという Roadrunner Quantum Lab、35,000平方フィートのアルバカーキ施設を開設、量子スタートアップ、国立研究所、エコシステムパートナーの初期コホートを迎えて です。
セキュリティと暗号の分野から2本です。Cloudflareが公開認証局となり、ポスト量子時代のWeb保護を目指すという Cloudflare、量子脅威からWebを保護する公開認証局を立ち上げ。Project ElevenがRiva Labsを買収し、ポスト量子暗号をブロックチェーンに統合するという Project Eleven、Riva Labsを買収し、ポスト量子暗号とブロックチェーンインフラストラクチャスタックを拡大 です。
ハードウェアとインフラの提携が2本あります。XanaduとBlueforsが、量子データセンター向けの極低温インフラを共同開発する数百万ドル規模の提携を発表したという XanaduとBluefors、ユーティリティスケール量子データセンター向けモジュール式極低温インフラストラクチャ開発のため数百万ドル規模の戦略的パートナーシップを締結。InfleqtionとRiverlaneが、中性原子ハードウェアとリアルタイムの誤り訂正復号技術を統合する覚書を交わしたという InfleqtionとRiverlane、中性原子ハードウェアとリアルタイムQEC復号器を統合する戦略的覚書を締結 です。
企業戦略が4本と市場動向です。カナダ最大の銀行RBCが、複数年にわたるエンタープライズ量子戦略を開始したという ロイヤル・バンク・オブ・カナダ(RBC)、エンタープライズ量子戦略とアカデミックな人材パイプラインを開始。Quandelaが韓国をアジアの主要拠点とし、フォトニックQPUの製造を行うという Quandela、韓国をフォトニックQPU製造およびハードウェア研究開発のアジア拠点として確立。Pasqalがフランス政府との協力を再編し、民生向けに専念するという Pasqal、Nasdaq上場後にフランス政府との協力を再編しEICの認知を獲得。KIST代表団が米国の会議に韓国スタートアップを率いて参加し、米国市場参入を進めるという KIST代表団、Quantum World Congress 2026で韓国の量子スタートアップエコシステムと米国市場参入を前進させる。最後に、9月29日の米国市場で量子関連10銘柄のうち8銘柄が下落し、平均で1.06%下がったという 【クオンタムマーケット】9月29日|10銘柄中8下落、平均-1.06% です。
今夜はこの中から3本を詳しく見ていきます。1本目は、カナダの銀行RBCが始めたエンタープライズ量子戦略。2本目は、Cloudflareの公開認証局。3本目は、Quandelaの韓国進出です。まず1本目、RBCの発表からです。
カナダ最大の銀行RBCが、2026年9月30日付で複数年にわたるエンタープライズ量子戦略を開始しました。ロイヤル・バンク・オブ・カナダ(RBC)、エンタープライズ量子戦略とアカデミックな人材パイプラインを開始。内容は、社内研究に加えてXanaduとの開発者育成、ウォータールー大学やトロント大学との学術連携、そしてPhotonic Inc.への直接出資です。この出資は、1億8,000万カナダドルの資金調達ラウンドへの参加という形を取っています。さらに、ポスト量子暗号と量子鍵配送への移行も進める計画です。久保田さん、金融機関が量子ハードウェア企業に直接出資するのは、この分野では珍しい動きなのでしょうか。
金融機関が量子ハードウェア企業に直接出資するのは、ソフトウェアやアルゴリズム研究が中心だった従来の銀行の関与の仕方とは一線を画します。RBCがPhotonic Inc.に出資することで、量子コンピュータの開発に金融機関の資本と実際の業務ニーズが直接入り込む点が変わるでしょう。また、社内研究、学術連携、人材育成を組み合わせた総合戦略である点も特徴です。
一方、まだ示されていないのは、この出資が具体的な金融業務の成果にいつ結びつくかです。Photonicの技術が実用化されるかどうか、他の銀行に波及するかが次に見えると決定的になります。
(1) 「一線を画します」は、これまでの銀行のやり方とはっきり区別する、という意味です。(2) つまり、RBCが量子ハードウェア企業へ直接出資まで含む総合戦略を始めたが、その成果がいつ金融業務に結びつくかはまだ示されていない、ということですね。
2本目は、Cloudflareの発表です。Cloudflare、量子脅威からWebを保護する公開認証局を立ち上げ。Cloudflareは公開認証局となり、従来のTLS証明書に加えて、Merkle Tree証明書と呼ばれる新しい形式の証明書を発行します。これは、量子コンピュータによる「今収穫し後で解読する」攻撃への対策です。ルート認証局の鍵素材はGlobalSignから取得し、本番運用は2027年第1四半期の予定です。久保田さん、このMerkle Tree証明書は、従来の証明書と比べて何が変わるのでしょうか。
Cloudflareが公開認証局となることで、Webサイトの証明書発行を自社で担い、ポスト量子時代に向けた新しい方式に切り替えます。ポイントはMerkle Tree証明書で、量子耐性署名の巨大なデータ量を、木構造の仕組みで圧縮してTLSハンドシェイクの負荷を抑えます。まだ示されていないのは、Google ChromeやAppleなど各ブラウザのルート組み込み承認が得られるかです。次にこの承認と、2027年第1四半期の本番運用開始が実現すれば、Web全体の移行が大きく前進するでしょう。
(1) 「TLSハンドシェイク」は、ブラウザとサーバーが暗号化通信を始める前に行うやり取りのことです。(2) つまり、Cloudflareが新しい証明書方式でWebを量子時代に備えるが、ブラウザの承認と本番運用開始が実現すれば大きく前進する、ということですね。
3本目は、Quandelaの発表です。Quandela、韓国をフォトニックQPU製造およびハードウェア研究開発のアジア拠点として確立。Quandelaは2026年9月29日付で、韓国をアジアの主要拠点とし、量子プロセッサの製造と研究開発を行う戦略を発表しました。サムスンやSK hynixなどとコンソーシアムを形成し、NVIDIAとの協業で通信レイテンシをミリ秒に短縮します。久保田さん、韓国を拠点に選んだことで、Quandelaの製造戦略はどう変わるのでしょうか。
Quandelaが韓国を拠点に選んだことで、フォトニックQPUの製造が半導体ファウンドリの量産ラインに乗る道筋がつきます。サムスンやSK hynixとのコンソーシアム形成により、試作段階から量産への移行が現実味を帯びるのが変わるところです。また、NVIDIAとの協業で通信レイテンシをミリ秒に短縮するのも、HPCとの統合を進める上で重要な一歩です。ただ、まだ示されていないのは、実際に韓国でQPUの量産が始まり、出荷実績が出るかどうかです。次に具体的な製造ラインの稼働や顧客への納入が発表されれば、この戦略の成否が明確になるでしょう。
(1) 「半導体ファウンドリ」は、半導体チップの製造を受託する工場のことです。(2) つまり、Quandelaが韓国を拠点に選んだことで、量子プロセッサの試作から量産への道筋はついたが、実際の量産開始と出荷実績はまだ示されていない、ということですね。
今日の3本、金融、Webセキュリティ、ハードウェア製造と、分野はそれぞればらばらです。無理にひとつの流れにまとめるより、それぞれが「量子技術の受け皿」を作っていると見るのが素直だと思います。RBCは金融業務での利用、CloudflareはWeb全体の保護、Quandelaは量産の場を、それぞれ自前で用意しようとしています。いずれも発表段階で、まだ成果は出ていません。次に見るべきは、この3つが実際の運用や出荷実績という形で結果を出せるかどうかです。特に、RBCの出資先であるPhotonicの技術が金融業務に届くかが、他の銀行にも波及する分かれ目になるでしょう。
9月29日の米国市場です。量子コンピュータ関連10銘柄のうち、上昇はIQMの1銘柄のみで、+1.17%でした。下落は8銘柄で、変わらずはXanaduの1銘柄でした。平均は-1.06%です。いちばん下げたのはArqitで-2.11%、続いてD-Waveが-2.09%、Infleqtionが-2.05%でした。IonQは-1.50%、Rigettiは-1.32%です。値動きの理由は、今日のニュースで扱った各社の発表が材料として見られているということです。投資の判断は、それぞれの情報を踏まえてお願いします。
3つの分野で量子技術の受け皿づくりが進んでいるが、いずれも発表段階。Photonicの技術が金融業務に届くかが、今後の分かれ目です。明日の夜も、この時間に。おやすみなさい。




