前回のおさらい
前回は、平均リターン10%・ばらつき15%という、まったく同じ性質の2つの資産HとIを半分ずつ持つと、2つの動き方(相関)によって全体のばらつきが変わることを見ました。2つが完全に一緒に動けばばらつきは15%のままで、効率(リターンをばらつきで割った値)は約0.67。無関係に動けばばらつきは約10.6%に下がり、効率は約0.94まで上がりました。
今回は予告どおり、資産を3つに増やします。そして「どの割合で持つと、いちばん効率がよいか」を、実際に数字で探してみます。
3つ目の資産Jを加える
新しく加えるのは、値動きの小さい資産Jです。
- H:平均リターン10%、ばらつき15%
- I:平均リターン10%、ばらつき15%
- J:平均リターン4%、ばらつき5%
Jは、リターンは低いけれど、振れ幅も小さい資産です。HやIに比べると「地味」に見えるかもしれません。
計算を追いやすくするため、今回はH・I・Jの3つが、どの2つをとっても「無関係」に動く(相関が0)とします。前回の表で、HとIを半分ずつ持ったときの「無関係」の行と同じ条件です。
全体のリターンとばらつきの出し方
3つを組み合わせたときの数字は、次の手順で出します。
全体のリターンは、それぞれの「持ち分の割合×リターン」を足すだけです。たとえばH 40%・I 40%・J 20%なら、0.4×10=4、0.4×10=4、0.2×4=0.8で、合わせて8.8%です。
全体のばらつきは、少し手順が増えます。無関係に動く資産どうしなら、次のとおりです。
- それぞれの「持ち分の割合×ばらつき」を出す
- その3つを、それぞれ2乗する
- 足し合わせる
- 平方根を取る
第2回で、ばらつきを出すときに「2乗して、平均して、平方根を取る」という手順を使いました。それとよく似た形です。
同じH 40%・I 40%・J 20%で計算すると、Hは0.4×15=6、Iも6、Jは0.2×5=1です。2乗すると36、36、1で、足すと73。73の平方根は約8.54なので、全体のばらつきは約8.5%になります。効率は8.8÷8.54で、約1.03です。
前回、HとIを半分ずつ持ったときの効率は約0.94でした。Jを2割加えただけで、効率が少し上がったことになります。
割合を変えて並べてみる
Jの割合を増やしていくと、どうなるでしょう。
| H | I | J | 全体のリターン | 全体のばらつき | 効率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 100% | 0% | 0% | 10% | 15% | 約0.67 |
| 50% | 50% | 0% | 10% | 約10.6% | 約0.94 |
| 40% | 40% | 20% | 8.8% | 約8.5% | 約1.03 |
| 30% | 30% | 40% | 7.6% | 約6.7% | 約1.14 |
| 20% | 20% | 60% | 6.4% | 約5.2% | 約1.23 |
| 0% | 0% | 100% | 4% | 5% | 0.8 |
H 20%・I 20%・J 60%の行を、手順どおりに確かめてみましょう。リターンは0.2×10+0.2×10+0.6×4で、2+2+2.4=6.4%です。ばらつきは、Hが0.2×15=3、Iも3、Jが0.6×5=3で、どれも3になります。2乗すると9が3つで27、27の平方根は約5.2です。効率は6.4÷5.2で、約1.23になります。
興味深いのは最後の行です。Jだけを持つと、効率は0.8にとどまります。ばらつきが小さいJも、単独では、HとIを半分ずつ持ったとき(約0.94)にも届きません。ところが、HとIとJを混ぜると、どれを単独で持つより効率が高くなります。前回見た「分けて持つと、振れ幅の一部が打ち消し合う」という効果が、3つでも働いているわけです。
「3分の1ずつ」はいちばんではない
迷ったら均等に、と考える方も多いと思います。H・I・Jを、それぞれ約3分の1ずつ(H 34%・I 33%・J 33%)持つとどうなるでしょう。
リターンは0.34×10+0.33×10+0.33×4で、3.4+3.3+1.32=8.02%です。ばらつきは、Hが0.34×15=5.1、Iが0.33×15=4.95、Jが0.33×5=1.65です。2乗すると約26.0、約24.5、約2.7で、足すと約53.3。平方根を取ると約7.3%になります。効率は8.02÷7.3で、約1.10です。
均等に分けるだけでも、HとIを半分ずつ持つ(約0.94)より効率は上がります。ただし、表のH 20%・I 20%・J 60%(約1.23)には届きません。「均等に分ける」ことと「いちばん効率がよい」ことも、同じではないのです。
いちばん効率のよい割合を探す
では、効率がいちばん高い割合はどこでしょうか。持ち分を10%刻みで動かして、すべての候補を調べてみます。
3つの割合の合計が100%になる組み合わせは、10%刻みで全部で66通りあります。そのすべてを計算すると、効率がいちばん高いのは、表にも載せたH 20%・I 20%・J 60%(効率 約1.23)でした。2番目は、H 20%・I 10%・J 70%と、H 10%・I 20%・J 70%で、どちらも効率は約1.20です。
ここで、ひとつ大事なことに気づきます。いちばん効率のよい組み合わせのリターンは6.4%で、HやIを全部持ったときの10%より低いのです。効率が最も高いことと、手にする金額が最も大きいことは、同じではありません。この点は、次回の最終回で取り上げます。
自分で確かめるときの手順
今回の計算は、表計算ソフトがあれば自分でも確かめられます。手順は次のとおりです。
- 1列目にHの割合、2列目にIの割合、3列目にJの割合を入れます。0%から100%まで10%刻みで、合計が100%になる行だけを残すと66行になります
- 4列目に全体のリターンを入れます。「Hの割合×10+Iの割合×10+Jの割合×4」です
- 5列目に全体のばらつきを入れます。「(Hの割合×15)の2乗+(Iの割合×15)の2乗+(Jの割合×5)の2乗」の平方根です
- 6列目に効率(4列目÷5列目)を入れ、大きい順に並べ替えます
いちばん上に来るのが、この前提の中でいちばん効率のよい割合です。数字を自分の手で動かしてみると、Jを増やすと効率がどう変わるのか、どこから下がり始めるのかが実感できます。
候補は、資産が増えるほど爆発的に増える
今回は3つの資産を10%刻みで調べたので、候補は66通りでした。これなら、表計算ソフトがあれば調べきれます。しかし、資産の数や刻みを変えると、事情は大きく変わります。
| 資産の数 | 10%刻みの候補の数 |
|---|---|
| 2つ | 11通り |
| 3つ | 66通り |
| 4つ | 286通り |
| 5つ | 1,001通り |
| 10個 | 92,378通り |
3つの資産でも、1%刻みにすると5,151通りになります。さらに現実には、今回のように「どれも無関係」とは限りません。2つずつの組ごとに相関が違うと、ばらつきの計算には組ごとの項が加わり、1つの候補を計算する手間も増えます。
このように、条件の中から最も良い割合を探す問題は、一般に「ポートフォリオ最適化」と呼ばれています。ここまで「効率」と呼んで比べてきたのは、その物差しのひとつです。
組み合わせが爆発的に増える「最も良いものを探す」問題は、量子コンピュータの研究でも「量子最適化」という分野として扱われています。ただし、実用的な規模で、従来のコンピュータによる計算より優れていることは、まだ確立されていません。資産の数が数十程度の配分なら、いまのパソコンで十分に計算できます。読者のみなさんが、いま量子コンピュータを使う必要はありません。
この数字が教えてくれること/教えてくれないこと
今回の計算からわかるのは、「性質の違う資産を組み合わせると、どれを単独で持つより効率が高くなることがある」ということと、「いちばん効率のよい割合は、候補を調べれば数字で見つけられる」ということです。
一方で、教えてくれないこともあります。HやIやJのリターンもばらつきも、そして「無関係に動く」という前提も、過去の数字や仮定にすぎません。前提が少し変わるだけで、いちばん効率のよい割合も変わります。今日見つけた「H 20%・I 20%・J 60%」が、来年もいちばんよいとは限りません。
そして、いちばん効率のよい配分は、いちばん多くのお金が増える配分ではありません。効率を上げることは、受ける振れ幅を抑えることであって、大きく増やすこととは別の話です。
次回予告(最終回)
次回は、いよいよ最終回です。今回見たとおり、効率のよい配分を見つけても、それだけで大きな成果が得られるわけではありません。最終回では、効率のよい組み合わせを土台にしながら、あえてリスクを少し増やして、個別の銘柄を一部だけ組み入れるといった工夫を考えます。その工夫で何が期待でき、どれだけの振れ幅を覚悟する必要があるのかを数字で確かめ、連載を締めくくります。
※本記事は、特定の銘柄・商品・証券会社を推奨するものではなく、投資助言を目的としたものではありません。投資に関する最終的な判断は、ご自身の責任で行ってください。また、本記事の内容は情報提供であり、投資の成果を保証するものではありません。

