量子コンピュータの会社が、チップを買う側から作る側へ回り込む動きが、この1年で相次いでいます。買収、ファウンドリ(半導体の受託製造工場)との提携、政府資金の投入が、方式のちがいを越えて同じ方向に並びました。ハードウェアの性能競争だけを見ていると見落とす変化なので、ここで流れを整理しておく価値があります。
きっかけを一つ挙げるなら、製造そのものが開発速度を決めていると業界が認めはじめたことです。編集部が取り上げた製造スループット、反復速度、および製造の経済性の分析では、IBMの量子チップがYorktown Heightsの200mm研究規模ラボで1日16時間、週5〜6日稼働だったものが、NY CREATESのAlbany NanoTech Complexで24時間365日ウェハを処理する体制に移り、週あたり約72時間の生産性損失が解消されたと説明されています。設計を出してからテスト済みデバイスが返ってくるまでの時間、つまりサイクルタイムが短いほど、試行回数を稼げます。量子ビットのコヒーレンス(量子状態が保たれる時間)はライン粗さのような製造品質に直接左右されるため、外部の工場に任せきりだと改良の回転が遅くなる、という論理です。
そこから先は具体的な取引が続きます。IonQは2026年1月にSkyWater Technologyを約18億ドルで買収する意向を発表し、株主承認を経て2026年7月31日に買収を完了しました。SkyWater株主は1株につき現金15.00ドルとIonQ普通株式0.4883株を受け取り、SkyWaterはDMEA Category 1A Trusted Foundryとして子会社で存続します。同じ2026年6月23日には、Quantum Computing Inc.がNHanced Semiconductorsを7,310万ドルで買収完了し、業績目標達成時に最大7,200万ドルの追加支払いが付く条件で、アリゾナ州テンペのFab 1に続く「Fab 2」を前倒しで立ち上げています。
逆方向の動きもあります。半導体側が量子に寄ってきました。GlobalFoundriesはQuantum Technology Solutionsを新設し、CHIPS and Science Actに基づく3億7,500万ドルの意向書を米国商務省と交わしました。超伝導、イオントラップ、シリコンフォトニック、トポロジカル、シリコンスピンの各方式に対応する標準化された製造ラインを設計するという構えで、SEALSQとは極低温CMOSやポスト量子暗号IPの共同開発にも進んでいます。ZuriQは2,550万ドルのシード調達とInfineonとのファウンドリ提携を通じ、9イオンの3×3アレイを実証して40イオン機へ向かっています。QuantinuumはQuanta Computerと組み、研究室組立からラックマウント可能な量産ハードウェアへの移行を狙います。国の資金も動いており、欧州では5000万ユーロ(5720万米ドル)のQ-PLANETパイロットラインが11カ国28機関で立ち上がり、日本ではHitachiがIntelおよびAISTとNEDOプロジェクトでIntel 18Aプロセスと量子デバイス専用PDKを使う計画を示しました。
では冒頭の問いへの答えです。量子コンピュータの会社が製造を取りに行く理由は、資料の範囲で言えば三つに集約されます。第一に、改良の反復速度を自社で握るため。第二に、デバイスごとの性能ばらつきを抑えて量産に耐える歩留まりを作るため。第三に、防衛や政府調達が求める国内供給網の要件を満たすためです。技術的な裏づけも出ており、Diraqとimecは商用の300mm SiMOSファウンドリラインで8量子ビット動作を実証し、2量子ビットから8量子ビットへ広げてもコア性能指標に系統的な劣化が見られず、Hahn-Echoコヒーレンス時間は最大1.31±0.04 msに達したと報告しました。
一方で、まだ示されていないことも明確です。垂直統合によってサイクルタイムが実際に何割短くなったか、歩留まりがどれだけ改善したかを示す公開データは、買収完了後の各社からまだ出ていません。IonQの2029年の20万量子ビットマシン機能テスト、Diraqの2031年までの100万量子ビット以上、Hitachiの2028年度の100量子ビットプロトタイプは、いずれも目標として掲げられた段階です。ファウンドリを抱えることが財務的に見合うのかも、Rigettiが第2四半期に収益514万ドル、営業損失2,806万ドルを計上した水準感を見れば、業界全体の売上規模と製造投資の隔たりは大きいままです。
次の局面を分けるのは、統合したファブから出てきたチップの数字です。同一プロセスで作った複数ウェハにわたる量子ビットの歩留まりと性能ばらつき、そして設計提出からテスト完了までの日数が具体的に公表されれば、製造を取りに行った判断が効いたのかを外から検証できます。Diraqの8量子ビットのような査読済みの実証が、100量子ビット級で再現されるかも同じ意味を持ちます。編集部はその数字が出る時点を待って、あらためて評価したいと考えています。
