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量子コンピュータ関連銘柄 更新: 10/12 11:45(日本時間)
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特集 ハードウェア

THRMLとpビット——「確率的ゆらぎ」で解く2つの熱力学アプローチ

要約

Extropic社の熱力学計算ライブラリTHRMLと東北大学のpビット(確率ビット)は、どちらも「確率的なゆらぎ」を計算資源としてエネルギー最小化を解く点で共通する。一方で、THRMLはJAXベースのソフトウェアで将来の専用チップを検証するアプローチ、pビットはスピントロニクス素子と半導体集積でハードウェア実装を進めるアプローチ。両者の仕組みと違いを解説する。

近年、AI計算の省エネ化や組み合わせ最適化を狙って、「確率的なゆらぎ」を計算資源として使うハードウェア・アルゴリズムが注目を集めている。その代表格が、Extropic社の熱力学計算のライブラリTHRMLと、東北大学を中心に開発が進むpビット(確率ビット)だ。両者は「エネルギー最小化で問題を解く」という思想を共有しながら、実装の物理層と狙いが異なる。本記事では、それぞれの仕組みを整理し、比較する。

THRMLとは何か

THRMLは、Extropic社が開発したJAXベースのオープンソースライブラリである。目的は、熱力学計算(Thermodynamic computing)のシミュレーションを行うことで、専用ハードウェアが存在する前に、ソフトウェア上で熱力学モデルを構築・サンプリングできるようにすることだ。

具体的には、確率的グラフィカルモデル(PGM)やエネルギーベースモデル(EBM)を構築し、効率的な「ブロックギブスサンプリング(block Gibbs sampling)」を実行する。JAXを使用してGPUで加速された計算を行うのが特徴だ。

熱力学マシン(ハードウェア)との関係

THRMLは、Extropic社が開発中の専用ハードウェア(Z1チップなど)のためのソフトウェア基盤でもある。ハードウェアの目的は、特定の離散型確率的グラフィカルモデル(PGM)のサンプリングを、従来のコンピュータよりも大幅にエネルギー効率よく実行することだ。

THRMLで構築されたモデル(ノードと多体相互作用からなるハイパーグラフィカルモデル)は、将来的にExtropicのハードウェア上で直接実行されることを想定している。つまり、THRMLは「ハードウェアが存在する前のシミュレーション環境」であり、同時に「ハードウェアで動くモデルの設計ツール」としての役割も果たす。

東北大学のpビットとは何か

一方、東北大学を中心とした研究チームが開発するpビット(確率ビット)は、物理状態の確率的なゆらぎ(熱的なノイズなど)を利用して、短時間で0または1を確率的に出力する基本単位である。これを用いて構成されるPコンピューターは、多数の状態を並列的に探索できるため、GPUなどの汎用コンピューターよりも高効率に動作する可能性がある。

pビットを用いたエネルギー最小化(アニーリング)は、複数のpビットを相互に結合させ、系全体のエネルギー(コスト関数)を最小化する状態(基底状態)を探すことで行われる。これは「巡回セールスマン問題」などの組み合わせ最適化問題に相当する。

最近の技術的進展

東北大学チームは、2025年12月に完全デジタル方式のpビット回路を提案し、スピントロニクス素子を用いてその動作を実証した。従来のpビットでは、デジタル信号をアナログ信号に変換するDAC(D-Aコンバータ)が必要だったが、これは面積と消費電力のボトルネックとなっていた。デジタル遅延回路を用いてDACの機能を代替することで、アナログ回路なしにpビットの出力確率を連続的に調整可能になり、大規模化が容易になる。

さらに2026年6月には、東北大学と米国NISTの共同研究チームが、米国SkyWater Technology社の130nm CMOSプロセスと東北大学の微細スピントロニクス素子作製プロセスを組み合わせて、シリコン基板上にpビット回路を試作し、その動作を実証した。これにより、100万ビット程度までの大規模化が射程に入り、社会実装に向けた開発に新しい道が開かれた。

THRMLとpビットの比較

観点THRML(Extropic)pビット(東北大学)
基本単位熱力学ハイパーグラフィカルモデル(EBM)確率ビット(0/1を確率的に出力)
演算原理エネルギー関数(EBM)をブロックギブスサンプリングで解くエネルギー関数にマッピングし、確率的動作でエネルギー最小化
物理実装専用ハードウェア(Z1チップ等)+GPUシミュレーション確率動作スピン素子(超常磁性MTJ)。以前はFPGAとケーブルで接続、2026年6月に130nm CMOSへ集積
狙いハードウェア実装前にGPUでアルゴリズムを検証・開発製造容易性・省エネ(面積・消費電力の削減)
ソフトウェアJAXベースのPythonライブラリ(ソフト主体)回路とスピン素子(ハード主体)

共通点と相違点

両者に共通するのは、エネルギー最小化で問題を解くこと、確率的揺らぎを計算資源として使うこと、そしてAI・機械学習の確率的アルゴリズムを効率的に実行する狙いを持つことだ。

一方で、pビットは「スピン素子の物理的なゆらぎを回路で使う」ハードウェア寄りのアプローチであり、THRMLは「EBMをソフトウェアで構築し、将来のハードウェアで動かす」ソフトウェア寄りのアプローチと言える。

つまり、「確率的な物理現象でエネルギー最小化する」という思想は共通だが、pビットは半導体・スピン素子のハードウェア実装に重きを置き、THRMLはアルゴリズム開発と将来の専用ハードウェア検証に重きを置いている。

まとめ

THRMLとpビットは、どちらも「確率的ゆらぎ」を計算資源としてエネルギー最小化を解くという点で深く似ている。一方で、THRMLはソフトウェア基盤として将来の専用チップを検証する立場、pビットはスピントロニクス素子と半導体集積でハードウェア実装を進める立場と、アプローチが異なる。両者の進展は、AI計算の省エネ化と組み合わせ最適化の実用化に向けて、今後も注目に値する。


出典:
- GitHub - extropic-ai/thrml
- Software | Extropic
- THRML · Thermodynamic Hypergraphical Models (公式ドキュメント)
- 世界初、半導体集積スピントロニクスPビット実証 | AIMR
- AI計算を高効率に処理可能な確率論的コンピューターの大規模化に向けて新技術の動作実証に成功

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