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量子コンピュータ関連銘柄 更新: 10/12 12:45(日本時間)
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特集 半導体

Extropicが確率計算チップ「Z1」をテープアウト、27万pビットで消費電力1W未満

要約

確率的な計算そのものを回路で行う「熱力学サンプリングユニット」を開発する Extropic が、269,568 pビットを載せた Z1 のテープアウトを公表しました。標準的なトランジスタで作れるため極低温も特殊材料も要りません。ソフトウェアは THRML などが公開済みで今日から試せます。早期提供は2027年です。

Extropic は、確率的な計算そのものをハードウェアで行う専用チップを開発しています。同社はこれを熱力学サンプリングユニット(TSU: thermodynamic sampling unit)と呼んでいます。その基本素子が pビット(probabilistic bit)です。pビットは 0 か 1 に確定せず、確率的に揺らぐ素子です。そして、いちばんの見どころはここです。pビットは半導体の標準的なトランジスタで作れる、とExtropicは説明しています。特殊な素材も極低温も要りません。つまり、いま動いている半導体の製造ラインにそのまま乗る、という設計です。標準的な製造工程を使い回せることが何を意味するかは、半導体プロセスの使い回しで量子ビット量産に道が開ける仕組みでも整理しています。

到達点として公表されたのが Z1 です。同社は2026年夏の記事で、Z1 のテープアウト(設計完了)を公表しました。その記事によると、Z1 は 269,568 pビットを載せ、16近傍の疎なグラフでつながっています。結合パラメータは 215,904 個です。ダイは一辺12mm未満、消費電力は1W未満、サンプリング速度は50MHz超としています。ここまでの流れも段階を踏んでいます。同社のハードウェアのページによると、2025年Q1 の X0 でシリコンの試作を行い、確率回路が製造可能であることを示しました。2025年Q3 の XTR-0 では、Extropic のチップと通常のプロセッサを低遅延でつなぐ開発用プラットフォームを用意しました。その先に Z1 があります。製品としては、M.2 形状で50万pビット超の Z1 Stick と、PCIe 形状で400万pビット超の Z1 Card が予定されており、いずれも early access は2027年とされています。なおWIRED日本版の2025年11月6日の記事の時点では、25万pビットのチップを「来年には提供できる」と説明していました。時期の見立ては、当初報じられたものより後ろになっています。

何ができるようになるのか。同社が狙っているのは生成AIの推論です。拡散モデルなどの推論は、確率分布からのサンプリングが本質です。そこを専用回路で直接やる、という筋道です。この構成は論文にもなっています。"An efficient probabilistic hardware architecture for diffusion-like models" はarXiv:2510.23972として公開され、査読誌 npj Unconventional Computing に2026年7月に掲載されました。Nature ポートフォリオの査読誌を通った主張である点は、読む側にとって手がかりになります。論文が提案する構成は Denoising Thermodynamic Computer Architecture(DTCA)と呼ばれています。要旨は、システムレベルの解析によれば、この構成にもとづく装置は単純な画像のベンチマークにおいてGPUと同等の性能を、およそ1万分の1のエネルギーで達成しうる、と述べています。ここは正確に添えておきます。この1万分の1という数字はシステムレベルの解析による見積もりであり、実際に製造したチップでの実測値ではありません。要旨の言い回しも「達成しうる」と断定を避けています。次に確かめられるのは実機の数字だ、ということです。性能の主張を共通の物差しで比べようという動き自体は、Quantum Optimization Benchmarking Library の公開のように別の分野でも進んでいます。

ハードウェアを待たなくても、ソフトウェアは今日から触れます。同社は THRML、Torx、Thermalizers をオープンソースで公開しています。THRML は熱力学デバイス向けのプログラミングフレームワークで、GPU上でチップの動きを再現できます。Torx は確率的な微分可能プログラミングのフレームワークで、学習可能なカーネルを持つ確率回路(有向ファクターグラフ)を組みます。同社はこれを「ディープラーニングにおけるPyTorchにあたるもの」と説明しています。Thermalizers は Torx で書いたプログラムを熱力学ハードウェア向けに変分的にコンパイルするライブラリです。同社の説明では「Thermalizers と THRML の関係は、PyTorch と CUDA の関係」です。ホワイトペーパーは公開済みで、ライブラリは近日とされています。さらに extropic.dev では、TSU上のワークロードを模擬できるAPIが提供されています。

編集部でも、公開されている THRML から派生した小さな実験を回してみました。3x3 の Bars and Stripes(14パターン)で、生成モデルのサンプリング手法を比べたものです。MPSボルンマシン(bond dim 8)では負の対数尤度が理論下限の ln(14)=2.6391 まで下がり、厳密サンプリング1000回のうち99.9%が正解パターンでした。一方、D3PM風の離散拡散(ビット反転ノイズ、T=64、MLPデノイザ)は正解率54.3%でした。14パターンすべてには到達します。ただ、逆過程の遷移核がビットごとに独立(因子化されている)ため、小さな離散データでも大域的な相関を捉えきれませんでした。Extropic の DTM/DTCA は、各デノイズ段階をエネルギーベースモデルとギブスサンプリングにすることで、まさにこの因子化の限界を外しにいく設計になっています。手元で回してみると、設計の狙いが腑に落ちます。なおこれは当サイトが手元で回した小さな実験であり、Extropic のハードウェアを評価したものではありません。拡散モデルを量子の側で使う例は拡散モデル的AIによる量子誤り緩和でも取り上げています。

誰が作っているのかも見ておきます。WIRED日本版によると、CEO は Guillaume Verdon です。以前は「Based Beff Jezos」名義でテック系アカウントを運営し、「effective accelerationism(e/acc)」の考え方を広めた人物です。CTO は Trevor McCourt で、Extropic に加わる前は Google で量子コンピュータの研究をしていました。前述の論文には、この2人に加えて MIT の電気工学・計算機科学科の Isaac Chuang が著者として入っています。量子計算の標準的な教科書(Nielsen & Chuang)の著者として知られる人です。

量子コンピュータを追ってきた読者にとって、この動きは遠い話ではありません。pビットが結合したグラフからサンプリングする構図は、イジング模型に近いものです。組合せ最適化をイジングの形に直して解く考え方は、QUBO変換とQAOA・アニーリングの現状整理で扱ったとおりです。量子アニーリングや QAOA で培った考え方は、そのまま効きます。量子とは別の道ですが、狙っている問題は隣り合っています。Z1 の early access は2027年です。そこで実機の数字が出てきます。楽しみに待ちたいところです。なお本記事の内容は2026年8月18日時点の公開情報にもとづくものです。仕様や時期は変わる可能性があります。

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