フォールトトレラントとは、量子コンピュータが計算の途中でエラーを起こしても、全体の計算を正しく最後までやり遂げられるようにする仕組みのことです。普通のコンピュータでも部品が故障したときのために冗長化が使われますが、量子コンピュータでは量子ビットが非常に不安定で、外部のわずかなノイズでも状態が変わってしまうため、この仕組みが特に重要になります。
量子ビットは「0」と「1」を同時に持つ重ね合わせ状態を利用しますが、その状態は観測や環境との相互作用であっさり崩れてしまいます。また、重ね合わせはたくさんの計算を並行してこなせる一方で、答えを全部取り出せるわけではなく、干渉を使って正しい答えが出やすくなるよう組み立てる必要があります。そこでフォールトトレラントでは、複数の物理量子ビットをまとめて1つの「論理量子ビット」として扱い、量子誤り訂正符号を使ってエラーを検出・修正しながら計算を進めます。たとえば、1つの論理量子ビットを多数の物理量子ビットで表現し、多数決のような仕組みで誤りを正すイメージです。これにより、個々の量子ビットがエラーを起こしても、計算全体が壊れないようにします。
現在の量子コンピュータは「NISQ(ノイズあり中規模量子コンピュータ)」と呼ばれ、エラーが多いため、長く複雑な計算はまだ難しい段階です。フォールトトレラントが実現すれば、エラーに妨げられずに大規模な計算を最後まで行えるようになり、創薬や材料開発、暗号解読などへの応用が考えられています。そのため、世界中の企業や研究機関がフォールトトレラントを最終目標に掲げ、ロードマップを公開しています。
最近の当サイトの記事でも、フォールトトレラントに向けた動きが続いています。IonQの研究者は、qLDPC符号の遅さに対処する手法で、論理クリフォード演算を最大74倍、論理トフォリゲートを最大5倍速くしたと発表しました。サスカチュワン大学の研究チームは、双曲曲面符号で量子ビット数を増やさずに符号距離を2倍にし、標準的な2次元トーリック符号の33倍の効率を示しました。InfleqtionとRiverlaneは、中性原子のハードウェアとリアルタイムの誤り訂正の復号器を組み合わせる覚書を結んでいます。また、米国エネルギー省は、フォールトトレラント量子コンピュータの科学的な価値を測るための8つの優先応用問題を公開しました。
身近な例えでは、長い文章を書いているときにタイプミスをしても、チェックしながら修正して全体を仕上げるのに似ています。よくある誤解は「フォールトトレラント=量子誤り訂正」と思われることですが、誤り訂正はその一部で、フォールトトレラントは計算全体の耐障害性を指す広い概念です。関連する用語としては、論理量子ビット、表面符号、qLDPC(低密度パリティチェック符号)などがあります。これらはフォールトトレラントを実現するための重要な技術で、量子コンピュータの実用化には欠かせません。




