発表の概要
米国立標準技術研究所(NIST)と、NISTとメリーランド大学の研究パートナーシップであるJQIの研究チームは、光の「ミニチュアの巻き尺」を生み出す新しい方法を実証しました。NISTが2026年10月16日のニュースで伝えたもので、論文は9月30日にNatureに掲載されています。従来の設計とは異なり、大型の実験装置に接続する必要なく高品質な光学測定ができるとしています。この新デバイスは、超精密な移動式時計に変革をもたらし、GPSが利用できない、または妨害された状況下で、ドローンや自動車、潜水艦などに重要な航法信号を提供するのに役立つ可能性があるとNISTは説明しています。
周波数コムの仕組みと役割
今回発表された小型機器は、マイクロチップ周波数コムと呼ばれるものです。周波数コムは、精密で均等に間隔が空いた色のスペクトルを生成し、それが定規の目盛りのように機能して、光の周波数を非常に高い精度で測定します。
周波数コムは、極めて精密なタイミング信号を生成する光原子時計の必須コンポーネントです。移動式の光時計は、時刻管理以外にも、軍事用の航法や、石油・ガス・鉱物資源の探査など、さまざまな用途に利用できるとNISTは述べています。
新方式の技術的特徴
NISTとJQIの科学者らは、今回のアプローチにおいて、2台のレーザーからの光を、マイクロ共振器として知られる極小のリングに送り込みます。光はそれ自体と相互作用し、コムの均等に間隔が空いた「目盛り」を生成します。この手法は、安定した高品質の目盛りを生成するために追加の電力消費機器を必要とした、従来の単一レーザー方式に伴う問題を回避しています。
JQIの解説によると、この方式は、ニュージーランドのオークランド大学のミロ・エルキンタロ氏らが2023年に予測した「パラメトリック駆動共振器ソリトン(PDCS)」という現象を使っています。両チームは2024年にPDCSを実験で作ったと報告しており、今回はそのコムの線をそろえ(自己整列)、研究チームはこれをSParCSと名付けています。
従来の単一レーザー方式では、レーザーの周波数を中心にコムが外側へ広がります。今回の方式では、周波数がほぼ2倍(1オクターブ)離れた2台のレーザーが両端となり、その間をコムが埋めます。周波数の絶対値を知るにはコムの「ゼロ周波数からのずれ(オフセット)」を測る必要があり、その標準的な手法(2005年のノーベル物理学賞の対象)には1オクターブ離れた強く安定した目盛りが欠かせません。論文の要旨によると、このオフセットは2台のレーザーの関係で決まるため確実に検出・安定化でき、コムは通信波長帯から可視光までの1オクターブにわたります。
実験で示したこと
論文の要旨によると、研究チームは同じチップのコムを使い、入力の固定のしかたを変えるだけで、光周波数コムの代表的な3つの用途を示しました。光の周波数合成、低雑音のミリ波の生成、そしてチップに組み込んだ光時計の読み出しです。自己整列は、ファウンドリーで製造した複数の素子で再現しました。JQIは、従来の大型の卓上装置と同等に動くとしています。NISTの写真説明によると、1枚のウエハーに400個超のチップがあり、各チップに最大300個のリング共振器が載っています。
論文
論文は「Self-aligned optical microcomb emerging between octave-separated lasers」の題で、2026年9月30日にNatureに掲載されました。JQIの研究者グレゴリー・モワイユ氏とカルティク・スリニヴァサン氏、オークランド大学のエルキンタロ氏らに加え、メリーランド大学ボルチモア郡校(UMBC)、カリフォルニア大学サンタバーバラ校(UCSB)、AV Inc.、米空軍研究所(AFRL)の研究者が参加しています。
どう見るか
論文の要旨自身が、チップ型の光周波数コムはこれまで実験室の外に出られていないと書いており、今回の成果も実験室での実証です。NISTやJQIは、持ち運べる光原子時計やGPSに頼らない航法への応用を挙げていますが、2台のレーザーが要る点は変わりません。




