NVIDIAは2026年10月13日、半導体業界のリーダー企業がNVIDIA CUDA-Xライブラリを採用し、AI定義ファブ(AI-defined fabs)を推進していると発表しました。AI定義ファブとは、AIがエンジニアのプロセス最適化や生産性向上を支援する半導体工場のことです。NVIDIAは新ライブラリ「NVIDIA cuPotential」を早期アクセスで提供します。
原子スケールのシミュレーションを加速するcuPotential
cuPotentialは、原子や分子の相互作用をシミュレートするAIエージェントを構築するためのライブラリで、早期アクセスでの試験では、すでにGPU向けに最適化されたワークフローをさらに2〜3倍高速化したとNVIDIAは説明しています。半導体材料や製造プロセスのモデリングには原子間の電気力などの計算が必要ですが、GPU最適化済みのソフトウェアでも時間がかかります。cuPotentialは、こうした計算を専門に高速化する関数を提供し、研究者がより多くの原子を対象にシミュレーションを試行・改良できるようにします。SynopsysはcuPotentialの早期導入企業の一つで、材料シミュレーションの加速に活用しています。
設計・製造の各段階でCUDA-Xを採用
半導体設計・製造では、SynopsysがcuPotentialに加え、電子挙動をモデル化するcuEST、複雑な工学シミュレーションを解くcuDSSを採用しています。NVIDIAによると、QuantumATKの初期結果ではcuESTで30倍の高速化の可能性が、S-DeviceのベンチマークではcuDSSで12倍の高速化が示されました。CadenceはNVIDIAのアクセラレーテッドコンピューティング、Nemotronオープンモデル、CUDA-Xライブラリを用いて、半導体から先端パッケージ、プリント基板に至る電気機械システムの設計・シミュレーションにエージェント型AIを導入しています。同社のAuraStack AIスーパーエージェントは、cuDSSとCadence Celsiusを組み合わせて先端パッケージの熱・応力最適化を8倍高速化しました。COMSOLはcuDSSにより半導体マルチフィジックスシミュレーションを最大10倍高速化し、Voltaiはエージェント型マルチフィジックスプラットフォーム「Voltaire」で、複雑な電気・熱・機械連成シミュレーションのワークフローを数カ月から1日に短縮したとしています。ChipAgentsは、NVIDIAのAIインフラとモデル訓練・最適化ソフトウェアを使ってチップ設計用の専門AIモデルを開発し、NVIDIAと共同でエージェントの性能を評価するベンチマーク「Build-A-Chip Bench」を構築中です。
製造ワークフローの最適化と検査・テストの高速化
製造工程では、Siemensがチップパターン補正とマスク準備用ソフトウェア「Calibre」の高速化にcuLithoを採用しています。Lam Researchは、オープンソースの3Dデータ処理ライブラリ「NanoVDB」を半導体プロセスモデリングプラットフォーム「SEMulator3D」に統合する予定で、特定のウェハエッチングモデリングを最大30倍高速化できる見込みです。また、NVIDIA PhysicsNeMoの使用はプラズマ予測シミュレーション時間を数日からミリ秒に短縮するのに役立つことが実証されています。LuminaryはPhysicsNeMoを半導体パッケージ設計に適用し、温度・圧力降下・熱応力を予測する物理AIモデルを訓練しました。これにより、同じスケジュールで100倍多くの設計案を探索できるとしています。
検査・テストでは、imecがNVIDIA AIとアクセラレーテッドコンピューティングを用いて走査電子顕微鏡画像のノイズ除去を実施し、cuLithoによるプロセスウィンドウ光近接効果補正でリソグラフィプロセスウィンドウを30%改善しました。KLAは、新たなNPP NCCカーネルで従来のCPU版より50倍高速で、KLAが手作業で調整した実装と同等の性能を達成しました。TeradyneはNVIDIA NPPとRAPIDS cuDF、CuPyを用いて画像センサーテストを高速化し、プローブメンテナンス推論を約85倍高速化しました。AdvantestはNVIDIA NemotronとKumo-Anomalyを統合し、NVIDIA Grace Blackwellシステム上でリアルタイム診断・推論を実現しました。NeMo Switchyard AIエージェントでモデル選択を自動化し、応答時間を数時間から数分に短縮しました。
ファブ運営と自動化への応用
Applied Materialsは、NVIDIA OmniverseとCUDA-Xライブラリ(cuDSS、cuEST、PhysicsNeMo)を材料発見、プロセス開発、ファブ最適化に活用し、チャンバーシミュレーションを最大35倍高速化しました。Analog DevicesはSynopsysの物理シミュレーションとNVIDIA Isaac Sim、Omniverseライブラリを組み合わせて高忠実度センシングシミュレーションとロボットベンチマークを開発しました。FANUCとFoxconnはロボットモデルをMega Omniverseブループリントに接続し、物理導入前に工場デジタルツインでロボット運用を検証します。OMRONはNVIDIA CosmosとMetropolisブループリントを検査装置に活用し、画像データ・装置ドキュメント・製造知識を組み合わせたエージェントでプリント基板の結果分析や欠陥原因の調査を支援します。
どう見るか
今回の発表では、NVIDIAがCUDA-Xライブラリの拡充と、半導体設計・製造・検査・テストにおける各社の採用事例を公表しました。cuPotentialは早期アクセスで提供され、NanoVDBはOpenVDB内でオープンソースとして提供されています。NPPはCUDA Toolkitで利用できます。
一方で、各社の性能数値(30倍、12倍、50倍、85倍など)はすべて各社またはNVIDIAの主張であり、第三者による測定結果は示されていません。提供時期が示されているのは、Lam ResearchのNanoVDBで高速化したSEMulator3Dの機能(年内の提供を目標)で、cuPotentialは早期アクセスの段階です。また、各社の採用事例は今後の統合や開発中のものが含まれ、実運用での検証結果がすべて公表されているわけではありません。




